家電量販店の携帯販売員に
向いている人・向いていない人。
3ヶ月で3人辞めた売り場から、
派遣社員が正直に書く。
派遣社員が正直に書く。
研修初日に「体力的にも精神的にもきつい仕事です」と言われた。正直な派遣先だと思った。でもその「きつさ」の正体が分かるまで、3ヶ月かかった。きつかったのは業務量じゃなかった。声出しと、サンプリングと、商品知識ゼロで売り場に立たされることと、その全部を「空気を読んで」自分でなんとかしろという環境だった。
3
人
3ヶ月で辞めた。1人入ってきた。差し引きマイナス2。
5
適性
向いている人に共通していた特徴。愛想は入っていない。
3
不適性
向いていない人の特徴。コミュ力は最後にしか出てこない。
誰も教えてくれない。聞けば教えてくれる。でも聞くタイミングも読まないといけない。
責任感は、対応力と一緒に、現場で勝手に育てていくものらしかった。
この記事は、そんな場所で3ヶ月生き残った派遣社員が、家電量販店のモバイル販売員に向いている人と向いていない人を、できるだけ正直に書いたものだ。
求人サイトの「やりがいがあります」とは違う話をする。
責任感は、対応力と一緒に、現場で勝手に育てていくものらしかった。
この記事は、そんな場所で3ヶ月生き残った派遣社員が、家電量販店のモバイル販売員に向いている人と向いていない人を、できるだけ正直に書いたものだ。
求人サイトの「やりがいがあります」とは違う話をする。
01
向いている人——売り場で生き残っていた5つの共通点
適性 01
真面目な人。ただし「愛想がいい真面目」じゃなくていい。
俺がいた3ヶ月で、すでに3人が辞めた。1人入ってきた。
辞めた3人を思い返すと、共通点があった。こちらが挨拶しても、目を合わせない。最低限の反応もない。愛想がないというより、話を聞く気がないという印象だった。
残った人は違う。目を合わせなくてもいい。でも、話を一応聞いてくれる優しさがある。たんたんと同じ説明を繰り返すことに、苦を感じていなさそうだった。
お客様に「ありがとう」と言われた後、その人たちはほんの少しだけ表情が変わる。にやつく、というより、一仕事終わった顔だ。それを積み重ねていく人が、この仕事で生き残っていく。
辞めた3人を思い返すと、共通点があった。こちらが挨拶しても、目を合わせない。最低限の反応もない。愛想がないというより、話を聞く気がないという印象だった。
残った人は違う。目を合わせなくてもいい。でも、話を一応聞いてくれる優しさがある。たんたんと同じ説明を繰り返すことに、苦を感じていなさそうだった。
お客様に「ありがとう」と言われた後、その人たちはほんの少しだけ表情が変わる。にやつく、というより、一仕事終わった顔だ。それを積み重ねていく人が、この仕事で生き残っていく。
3ヶ月の現場で見えたこと
携帯販売員の適性として「コミュ力が高い人」とよく言われるが、
俺の現場で生き残っていたのは、コミュ力よりも地味に真面目な人だった。
俺の現場で生き残っていたのは、コミュ力よりも地味に真面目な人だった。
適性 02
劣悪な休憩室に耐えられる人。——携帯販売員の「きつさ」は業務外にもある。
まず、外に出られない。セキュリティの関係で。
休憩室のトイレは、古びた黄色みのある便器に、白い新しめの蓋がついている。持ち手があるタイプのドア。快活CLUBのトイレをもう少し古くして、下水の匂いをつけた感じだ。
白いテーブルが15個ほど並んで、最大50人くらいが座れる。早番の昼休憩が重なると、残り5席くらいになる。
休憩室のトイレは、古びた黄色みのある便器に、白い新しめの蓋がついている。持ち手があるタイプのドア。快活CLUBのトイレをもう少し古くして、下水の匂いをつけた感じだ。
白いテーブルが15個ほど並んで、最大50人くらいが座れる。早番の昼休憩が重なると、残り5席くらいになる。
休憩室の生態系
外に出られない密室の昼休憩
01
カップラーメンを食べる人が、本当に多い。外に出られないから当然で、しかも給湯器があって、カップラーメンの自販機まである。弁当を忘れても生きていける設計になっている。
02
冷蔵庫は黄ばんでいる。開けるたびに少しだけ覚悟がいる。
03
早番の昼休憩が被ると、50席のうち45席が埋まる。残り5席を探す時間が、休憩時間を削る。
これを「まぁそんなもんか」と思えるかどうかは、わりと重要な適性だと思う。
ネットの体験談では「ノルマがきつい」「覚えることが多い」と書かれがちだが、毎日過ごす休憩室の居心地が地味に精神を削るという話は、あまり出てこない。
ネットの体験談では「ノルマがきつい」「覚えることが多い」と書かれがちだが、毎日過ごす休憩室の居心地が地味に精神を削るという話は、あまり出てこない。
適性 03
ミスをしない人。愛想より、まずこっちが大事。
お客様の個人情報を扱う仕事だ。1度目のミスでも、わりとはっきり言われる。2度目は、かなり厳しく言われる。
ある上司は、笑えない冗談を言っていた。
「そろそろ○○さん、指飛ばさないといけないかもね。」
笑えない、と書いたが、その場の空気は笑っていた。
ある上司は、笑えない冗談を言っていた。
「そろそろ○○さん、指飛ばさないといけないかもね。」
笑えない、と書いたが、その場の空気は笑っていた。
この職場の生存条件
必須
正確さ——ミスをしないこと
契約プランの入力ミス、コード適用漏れ、個人情報の取り扱いミス。どれも一発で信頼を失う。正確さが、居場所をつくる。
任意
愛想——あれば楽だが、なくても生き残れる
愛想がなくても、ミスさえしなければ、この職場ではある程度やっていける。それを目の当たりにした3ヶ月だった。
適性 04
内輪のノリに、いちいち反応しなくていい人。
契約が取れて、オプションも取れる人は、多少ふざけていても咎められない。厳しめの上司でも、黙認していた。
片耳にイヤホンを挿して、トランシーバー越しに内輪のノリを飛ばしてくる人間が、俺の職場には3人いた。有能だった。だから許されていた。
それに「気に入らない」と思ったとしても、それを顔に出さずにやり過ごせるかどうか。この職場の空気に、完全に同化する必要はない。でも、完全に拒絶もできない。
片耳にイヤホンを挿して、トランシーバー越しに内輪のノリを飛ばしてくる人間が、俺の職場には3人いた。有能だった。だから許されていた。
それに「気に入らない」と思ったとしても、それを顔に出さずにやり過ごせるかどうか。この職場の空気に、完全に同化する必要はない。でも、完全に拒絶もできない。
家電量販店モバイル売り場の空気
原則
数字を出す人が正義
契約件数とオプション獲得数がすべて。それ以外の評価軸は、あってないようなものだった。
結果
数字がある人間の「ふざけ」は黙認される
内輪のノリ、トランシーバー越しの雑談。有能であれば許される。無能であれば叱責される。同じ行動でも、結果が違う。
生存戦略
同化でも拒絶でもない、無反応
自分の感情を一定に保てる人は、向いている。 ノリに乗れなくてもいい。ただ、顔に出さないこと。それだけで、この場所では十分やっていける。
適性 05
接客業特有の「何も生産していない疲れ」に耐えられる人。
男性はスニーカー禁止だった。その靴で、売り場を歩き続ける。ティッシュ配りは、立ったまま。
運動とは違う疲れが蓄積していく。足の裏と、精神の底が、じわじわと削られていく感覚。
ジムに行くのとは違う。動いているのに、何も生産した気がしない疲れだ。それでも翌日また来られる人は、この仕事に向いている。
運動とは違う疲れが蓄積していく。足の裏と、精神の底が、じわじわと削られていく感覚。
ジムに行くのとは違う。動いているのに、何も生産した気がしない疲れだ。それでも翌日また来られる人は、この仕事に向いている。
疲労の分類——この売り場で感じたもの
運動の疲れ
動いた分だけ成果がある
筋肉痛が達成感に変わる
生産的な消耗
売り場の疲れ
動いているのに何も生まれない
足の裏が削れて精神も削れる
消耗だけが残る
携帯販売員がきついと言われる理由の一つに「体力が必要」がよく挙がるが、正確に言えば必要なのは体力ではない。消耗感への耐性だ。
02
向いていない人——売り場が合わなかった3つの特徴
不適性 01
発信ベースで動いている人。——「時間を切り売りすること」への違和感が消えない。
業務中はスマホを触れない。メモを取っていても、業務に関係なければ何か言われる。
何より、職場の空気が、「時間を切り売りすることへの無自覚」で満ちている。AI全盛期の流れをどこかで気にしている人には、その乖離が日々積み重なっていく。
使っている携帯が最新かといえば、そうでもない。入る前は「携帯販売員だから三眼iPhoneがデフォルトだろう」と思っていたが、全然そうじゃなかった。
何より、職場の空気が、「時間を切り売りすることへの無自覚」で満ちている。AI全盛期の流れをどこかで気にしている人には、その乖離が日々積み重なっていく。
使っている携帯が最新かといえば、そうでもない。入る前は「携帯販売員だから三眼iPhoneがデフォルトだろう」と思っていたが、全然そうじゃなかった。
自分の名前で何かを発信したい、届けたいと思っている人には、この職場の時間はかなり重い。
価値を世に届けたいという気持ちが少しでもある人は、この仕事を「腰掛け」にしか思えなくなる。それ自体は悪いことじゃない。ただ、腰掛けのまま3ヶ月持たせるのは、思ったより難しい。
不適性 02
荷物が多い人。——毎日の荷物チェックが地味にきつい。
入退勤時に荷物チェックがある。全部出さないといけない。
これだけだが、毎日のことだ。地味に、効いてくる。
セキュリティ上の理由で仕方がないのだが、カバンの中身を毎日広げられるストレスは、経験しないと分からない。身軽に動ける人のほうが、余計なストレスを溜めずに済む。
これだけだが、毎日のことだ。地味に、効いてくる。
セキュリティ上の理由で仕方がないのだが、カバンの中身を毎日広げられるストレスは、経験しないと分からない。身軽に動ける人のほうが、余計なストレスを溜めずに済む。
出勤時
カバンの中身を全部出す
朝、ロッカーに行く前にチェック。財布、スマホ、弁当箱、水筒、イヤホン——全部テーブルに並べる。
退勤時
また全部出す
疲れ切った体で、もう一度同じことをする。これが毎日。荷物が多い人間ほど、この時間が長くなる。
不適性 03
コミュニケーションに強い苦手意識がある人。
ありきたりだから、あまり書かない。ただ、接客業である以上、最低限はいる。それだけ。
ただし前述の通り、「コミュ力おばけ」である必要はない。最低限、お客様の話を聞いて、聞かれたことに落ち着いて答えられるなら、やっていける。
ただし前述の通り、「コミュ力おばけ」である必要はない。最低限、お客様の話を聞いて、聞かれたことに落ち着いて答えられるなら、やっていける。
03
向き不向きの全体像——愛想とコミュ力は、思ったほど重要じゃなかった
3ヶ月で見えた「向いている人」の優先順位
1
ミスをしない正確さ
個人情報を扱う。プランを間違えない。コードを漏らさない。これがすべての土台。愛想がなくても、ここさえ守れば居場所はできる。
2
地味な真面目さ
目を合わせなくてもいい。でも話を聞く。同じ説明を繰り返すことに苦を感じない。その積み重ねが信頼になる。
3
環境への耐性
黄ばんだ冷蔵庫。下水の匂い。カップラーメンだらけの休憩室。荷物チェック。これを「まぁそんなもんか」と思えるかどうか。
4
感情の安定
内輪のノリ、数字主義、上が免除される礼儀。気に入らなくても顔に出さない。同化しなくていいが、拒絶もしない。
5
消耗感への耐性
体力ではない。「動いているのに何も生産していない」という感覚に、翌日も耐えられるかどうか。
求人サイトには「人と話すのが好きな人」「ガジェットに興味がある人」と書かれている。それは嘘じゃない。でも、それだけでは3ヶ月持たない。
この売り場で生き残るのは、地味で、正確で、環境に文句を言わず、感情を一定に保てる人だ。華やかさは、いらない。
この売り場で生き残るのは、地味で、正確で、環境に文句を言わず、感情を一定に保てる人だ。華やかさは、いらない。
04
3ヶ月で気づいたこと——21時38分の休憩室
勤務終わり、残業して締め作業を終えて、21時38分に休憩室に入ったことがある。
もろに下水の匂いがした。屋上ではタバコの煙がぷかぷか。黄ばんだ冷蔵庫。
この「しんどさ」は、違う職種の人にはなかなか伝わらない。言語化しても、伝わらない。「そんなもんじゃないの」で終わる。
でも確かに、そこにいた。毎日、思考を反復させながら。自分の情けなさと、それでも消えなかった「発信したい」という気持ちを抱えながら。
もろに下水の匂いがした。屋上ではタバコの煙がぷかぷか。黄ばんだ冷蔵庫。
この「しんどさ」は、違う職種の人にはなかなか伝わらない。言語化しても、伝わらない。「そんなもんじゃないの」で終わる。
でも確かに、そこにいた。毎日、思考を反復させながら。自分の情けなさと、それでも消えなかった「発信したい」という気持ちを抱えながら。
21:38、休憩室にて
この仕事の「きつさ」は、業務そのものにあるのではなく、
業務と業務のあいだの時間——休憩室、荷物チェック、
直立の時間——に染みついている。
業務と業務のあいだの時間——休憩室、荷物チェック、
直立の時間——に染みついている。
05
最後に——悪い人間ばかりではなかった
ここまで書いてきたことが、あなたの職場に全部当てはまるわけじゃない。まったく見当外れかもしれない。
ただ、俺の直属の上司は、思っていたより話を聞いてくれる人だった。悪い人間ばかりではなかった。
くせが強い人は多い。でも、思っているより悪い人もいない。それがこの職場の、正直なところだと思っている。
ただ、俺の直属の上司は、思っていたより話を聞いてくれる人だった。悪い人間ばかりではなかった。
くせが強い人は多い。でも、思っているより悪い人もいない。それがこの職場の、正直なところだと思っている。
串1
愛想より正確さ
この売り場で最初に求められるのは、笑顔でも声の大きさでもない。ミスをしないこと。それが信頼の出発点だった。
串2
「きつさ」は業務外に染みつく
休憩室、荷物チェック、直立の時間。仕事内容ではなく、仕事を囲む環境が、じわじわと精神を削る。
串3
それでも、発信したい気持ちは消えなかった
不満を持ちながら、しんどい思いをしながら。この仕事を表面にして、発信を裏面にする——その逆をやりたかった。
前の記事からの接続
前回は「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」の違いについて書いた。今回は「その売り場に向いている人間と、向いていない人間」を書いた。同じ場所を、違う角度から切っている。
不満を持ちながら、しんどい思いをしながら、
それでも発信したいという気持ちを決して消さなかった男が書いた記事だ。
こういうがちリアルな体験談を、これからもここに上げていく。力入れるよ。
それでも発信したいという気持ちを決して消さなかった男が書いた記事だ。
こういうがちリアルな体験談を、これからもここに上げていく。力入れるよ。
この記事について
本記事は家電量販店のモバイルコーナーで派遣社員として3ヶ月間勤務した実体験をもとに執筆しています。家電量販店の携帯販売員に向いている人・向いていない人の特徴、携帯販売員の仕事がきついと言われる理由、派遣社員としてのリアルな労働環境について、体験者の視点から記録しています。登場する固有名詞や職場の特定につながる情報は一部変更・省略しています。本記事の内容は筆者個人の体験に基づくものであり、すべての家電量販店・モバイル売り場に当てはまるものではありません。
前の記事:「いらっしゃいませ」より「ありがとうございました」の方が言葉が乗った話。
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