労働記録 EP.13仕事遍歴シリーズ

最初の1ヶ月で教わったこと。
教わらなかったこと。

家電量販店の携帯販売員。派遣社員が放置される現場の記録。

派遣社員の教育がほとんどなされないという話は、よく聞く。

あれを、ありありと体験したのが最初の1ヶ月だった。

最初はいじめられていると思ったぐらいだ。本当に放置される。どれぐらい放置かというと、自分から聞き出さなきゃ誰も寄ってきてくれない。なにより挨拶も、下っ端から言うべきだと多くの同じキャリアの従業員は思うのだろうか。自分から挨拶することがほとんどだった。
SECTION 01

教わったこと。

じゃあ逆に、何を教えてもらえるのか。

「ここにこんなのがあります」「他の階はこの紙見て」と言われて渡されたのは、フロアマップと、どんな商品が置いてあるかをざっくり書いた小型の紙だった。それを見て、お客様から場所を聞かれた際に答えること。これが最初の仕事になった。

01
フロアマップと商品配置の紙
小さい紙を渡される。それを見て、お客様に場所を聞かれたら答える。他の階の商品配置もこの紙で把握する。
02
スマホケースの案内方法
設定を開いてもらって機種名がそのまま出るならそのまま案内する。型番で表示されるものは、業務中スマホを使えないからお客様自身にコピーまたは入力してもらって検索してもらい、案内するようにと教わった。
03
場所案内の作法
お客様に場所を案内するとき、「あそこにあります」と指さして口頭で説明するのではなく、その場所に一緒に行き、案内するまでがお客様対応だと。
04
立ち方と声の出し方
これは軽く教えられた。軽く。
05
業務端末のパスワードと勤務報告メール
勤務開始時に業務端末にパスワードを入力しないといけない。そのパスワードとどうやって打つかを一回だけ教えてもらった。最初の一回だけ。二日目からは自分がメモったパスワードと、前の人が打ったメールを見ながら、勤務報告メールを自力で入力した。
教わったことは、これで全部だ。 ── 最初の1ヶ月の「研修」
SECTION 02

教わらなかったこと。

こっちのほうが、はるかに多い。

TAUGHT ── 教わった
フロアマップの読み方
スマホケースの案内方法
場所案内は一緒に行く
立ち方と声の出し方(軽く)
業務端末のパスワード(一回だけ)
NOT TAUGHT ── 教わらなかった
商品情報
スマホの情報
プラン内容
お客様の接客のやり方
休憩のとり方・勝手に行っていいのか
荷物チェックがあること
スニーカーがダメなこと
ネクタイ必須なこと

荷物チェックがあることは、顔合わせや事前面談で一切話されていない。スニーカーがダメなことも。ネクタイは必ず着用しないといけないことも。事前に言われたのは「スーツ」とだけ

休憩をどうやってとるか。勝手に休憩に行っていいのか。これも教わらなかった。

「スーツ」とだけ言われた。
荷物チェックも、ネクタイも、
スニーカーNGも、聞いていない。
SECTION 03

自分から聞き出さなきゃ、
誰も寄ってこない。

本当に放置される。どれぐらい放置かというと、自分から聞き出さなきゃ誰も寄ってきてくれない。

挨拶も、自分から言うことがほとんどだった。下っ端から言うべきだと、同じキャリアの多くの従業員は思っているのだろうか。そう感じるぐらい、こちらから声をかけない限り、存在を認識されていないような空気だった。

最初はいじめられていると思った。でもそうじゃなかった。誰も悪意を持っているわけではない。単に、教育が誰の仕事でもないだけだった。

最初はいじめられていると思ったぐらいだ。
本当に、放置される。 ── 入社初月の実感
2
ヶ月間
立っているか、ティッシュを配っているか。それだけ。
SECTION 04

「まだその段階だね。」

1ヶ月ごとの面談で言われたこと。

メンターの人との面談が1ヶ月ごとにある。「どこまで教えてもらってたの?」と聞かれた。

面談
どこまで教えてもらってたの?
自分
いや、基本立っているか、ティッシュを配っているかしているだけです。
面談
そうなのか。まだその段階だね。
「まだその段階だね。」 ── 1ヶ月目の面談にて

2ヶ月目。同じ質問をされた。

面談
どこまで教えてもらったの?
自分
いや、基本立っているか、ティッシュを配っているかだけです。
面談
じゃあプランとかも教えたり、案内とか横で聞いたりもしてないって感じ?
自分
はい、そうです。

そこで俺は2ヶ月目にして言い放った。

そろそろやめることも検討しています。
正直今の仕事をしていても成長しない。
もっと有意義に時間を使いたい。
時間がたつのが遅すぎる。 ── 2ヶ月目の面談で、正直に言ってしまった
SECTION 05

「今そんなの教えても
しょうがないでしょ。」

あるとき、誰かが俺に何かを教えようとしていた。それを上の立場の人が見た。

上の人
今そんなの教えてもしょうがないでしょ。
まず売り場に慣れるのが最優先。

俺から言わせてみれば、まず先の業務を少し齧って、先が少し見通せた段階ならば、もう少しこの売り場でのふるまい方や気分の問題も少しは解消できていたのにと思う。

でも、そういう茶々を入れているのが結構怖い人だから、自分で言い返す勇気もなく。情けないのだが。

「今そんなの教えてもしょうがないでしょ。」

── なら、いつ教えてくれるんですか。 ── 誰かが教えようとしてくれた瞬間を、上が止めた
SECTION 06

「今はそんな余裕ないので。」

レジやコーティングも、のちのち教えてくれると言われていた。だが実際に頼むと、「今はそんな余裕ないので」と交わされた。

「今は」って、ずっとだろ。

でも本当に余裕がなさそうなんだよ。主にカウンターにいる人は。つまり、この家電量販店で働き始めてもう1年以上たった人ですら、余裕がない。余裕のない人間が、新人に何かを教えられるわけがない。

SECTION 07

祖父が死んだ。
誰に言えばいいのかわからなかった。

祖父が亡くなったとき、忌引きをとる必要があった。

誰に言えばいいのか、わからなかった。

忌引きのとき、どう、誰に言えばいいのか。これはしょうがない部分もあるが、そういうことも教えてもらえず、俺は苦労した。誰に打ち明けていいか、どきどきした。ずっと悲しい気持ちのまま。

誰に打ち明けていいか、どきどきした。
ずっと悲しい気持ちのまま。 ── 祖父の忌引き
SECTION 08

俺は遅すぎる。

別キャリアの新人は、3日で商談席にいた。

他のキャリアの、俺の後にこの家電量販店で働き始めた新人がいた。

その新人は、開始3日ぐらいでモバイルコーナーからその近くの商談席に移動し、先輩の営業トークを聞かせてもらっていた。

自分
2ヶ月目:立っているか、ティッシュを配っている
別キャリアの新人(後から入社)
3日目:商談席で先輩の営業トークを聞いている

俺は遅すぎる。

こういう個性がキャリアごとにあることも、教えてもらわなかった。

SECTION 09

キャリアによって、人が違う。

同じ家電量販店のモバイルコーナーにいても、キャリアによって人間関係がまるで違う。

とあるキャリアはごつめの、背がデカい人が結構いたり、個性派の人がいたり。自分のいるキャリアはしゅっとしているところが多かった。

だけどこういうことも、事前に誰も教えてくれない。配属されて初めて知る。

SECTION 10

これからモバイル販売員になる人へ。

同じ家電量販店のモバイル販売員にこれからなる人に伝えたいことがある。

受け身だとだめ。
自分から聞かないと、誰も教えてくれない。待っていても何も始まらない。これは断言できる。
でも、積極的でも最初の3ヶ月は様子を見られる。
自分から動いたところで、最初の3ヶ月はどうしても様子を見られるというのが決まりのようなもの。それは覚悟しておいた方がいい。
企業体質としては、平成。
結構柔軟性はなくて、企業体質としては平成だ。そこんところぐっと耐えて、前向きに接客をして、それでも何かをつかむ。自分のこれからの時代との潮流に半ば乖離していっていることに、無自覚になれるかどうか。
キャリアによって人間関係がまるで違う。
配属先のキャリアで環境が全部変わる。教育の速度も、人の雰囲気も、全然違う。「どこでもいいです」は言わない方がいい。

CONCLUSION

教わったことは、フロアマップの紙と、スマホケースの案内方法と、場所案内の作法と、業務端末のパスワード。それだけだった。

教わらなかったことは、商品情報、プラン内容、接客のやり方、休憩のとり方、荷物チェック、服装の細かいルール、忌引きの連絡先。仕事のほぼ全部だ。

誰かが教えようとしてくれたとき、上の人が止めた。「今そんなの教えてもしょうがないでしょ。」

2ヶ月間、立っているか、ティッシュを配っているかだけだった。面談で「まだその段階だね」と言われた。別キャリアの新人は3日で商談席にいた。

祖父が死んだとき、誰に言えばいいかわからなかった。

「まだその段階だね。」

── その段階から上がる階段を、
誰も見せてくれなかった。 EP.13「家電量販店の携帯販売員が最初の1ヶ月で教わること・教わらないこと。」