万引きGメンの事務所座学研修で、教わったこと。

EP.18 ── 万引きGメン篇 ② / 3
万引きGメン、
事務所研修で教わったこと。
5時間のうち、一番長かったのは
「やるな」の話だった。

採用から10日後。同じ雑居ビル。同じ部屋。
万引き犯の見分け方。声のかけ方。誤認した場合のリスク。
メモ紙2ページに叩き込まれた日の記録。

5h10:00 – 15:00
研修の時間
4人自分+他3名
講師=社長
¥600からあげ弁当
その場で会計
SECTION 01

研修が始まるまで。5分前にギリギリ到着。

着いたのは5分前。ギリギリだった。

場所は面接を受けたのと同じ雑居ビルの一室。EP.17で書いた、あの部屋だ。採用からざっくり10日後。

部屋に入ると、すでに3人が座っていた。

うわ。このひとたちが新しいGメンになるひとか。
ごくごく一般人やん。

それにしても、おれより年齢が二回りちがう。
おれの親より少し下のおばさんがいるんだけど。

簡単なあいさつはした。でも雑談はない。一切ない。
全員、やることがないのに無言でスマホを触っていた。

途中お腹が痛くならないか心配するほど緊張していた。

SECTION 02

服装と持ち物。提出書類は多め。

服装は黒とグレーの中間色のシャツにジーパン。面接時に「目立たない色で」と言われたのをそのまま踏襲した。

ITEMS

メモ・ペン
ノートではなくメモ紙。
結果的に2ページ書いた。

DOCUMENTS

身分証明書
住民票のコピー
運転免許証のコピー
身元保証人の書類
──万が一自分が万引きした場合の保証人。母親の署名が入ったもの。提出書類は多め。

SECTION 03

研修の全体の流れ。社長がひとりで喋り続けた5時間。

事前に「初日は映像を見る」と聞いていたが、実際はちがった。
社長がひとりでずっと説明するスタイルだった。

1
注意事項 ──「何をしてはいけないか」研修で一番長かったのがここ。誤認のリスク。得意先の信用を失う行為はやめてくださいということ。「これが一番大事です」と社長は言った。
2
万引き犯の見分け方・声のかけ方怪しい人物の特徴。声掛けのタイミングとセリフ。対処の流れ。
3
一日の流れ入店から退店まで。店長への挨拶、巡回、報告書の提出。
4
勤務報告書の書き方先輩が過去に書いた報告書を、社長が個人情報を隠した状態でプリントアウトして見せてくれた。
5
万が一の暴力への対処研修で一番短かったパート。よっぽどのことがない限り暴力を振るわれることはないが、万が一のとき、相手の又にかかとを滑り込ませて転ばせる。

パートごとに10分の休憩。
大きな休憩は弁当の時間で約40分。

からあげ弁当の話

研修の途中、弁当屋のおねえちゃんが部屋に入ってきた。

全員600円のからあげ弁当。

なぜ金額がわかったかというと、その場で会計を支払っていたから。

SECTION 04

万引き犯の見分け方。
「とにかく手を見てください。目は合わせないように。」

RULE ── 研修で社長が繰り返した言葉

「とにかく手を見てください。
目は合わせないように。」

目を合わせると、相手に「見られている」と意識させてしまう。
だからとにかく手を見る。

研修で最初に教わったのは、「どこを見るか」だった。

答えは手。顔でも目線でもない。とにかく手を見るということを心がける。目を合わせると、相手に「見られている」と意識させてしまうから。

目線の動き

目線が浮ついている。キョロキョロしている。
商品ではなく周囲の人間を気にしている。

手の動き・商品の特徴

握りやすいもの、手にはまりやすいものに手を伸ばす。

たとえばガム。ガムを持ったらよく取られるから、より注視したほうがいいと。

服装の特徴

汚い人は注意。逆にやけに几帳面でしっかりしているのも注意。
どちらの極端も気をつけろ、ということ。

カバン・バッグの特徴

手提げかばん、肩掛け、リュック──要は入れやすいもの。

カゴの中に入っているマイバッグ。チラシなどで滑り込ませて入れるかもしれない。

過去にそういう人がいたんですよ。
で「故意にやったわけではない」と主張されたことがあって。

歩き方

極端に早いか、極端に遅い。
どちらも通常の買い物客の動きから外れている。

複数人で来るケース

外国人の複数人で持っていくケース。
特に転売価値の高いビールなど。注視しなければならない。


映像はあったのか

事前に聞いていた映像視聴はほぼなかった。

ただし、ひとつだけ──縦型のモザイクありの、実際に検挙したときの映像を10秒くらい見せてもらった。

ほんとうにあれ、警察24時みたいだった。


教わったときの正直な感想

大きな発見はなかった。どれも「そうだな」としか思わなかった。

でもたしかに、握りやすいものはチェックしておくべきだし、人は棚の間の見えにくいところで盗むのも当たり前だし。

ただ、言われてみて当たり前に気づくだけで、まったく研修を受けていないと自分の立ち回りはもっとめちゃくちゃなものになっていたように思う。

SECTION 05

声のかけ方・捕獲の手順。
これ、俺にできるのかな。

声をかけるタイミング

店を出てから。

店内ではダメ。
戻ってきて「あぁ返し忘れてたわ」みたいなことがあったから、必ず店の外に出てから。一歩でも外に出てから声をかける。

声をかけるときのセリフ

定型

「何か心当たりはありませんか。」

声をかけた後の流れ

1
声掛け店を出た直後に声をかける。
2
バックヤードに連れていく半ば強引にでも。逃げようとした場合でも連れていく。
3
逃げた場合必ず写真は押さえておく。
4
逆ギレされた場合決して人格否定はしないで耐える。事務所まで説得する。「いまここで罪を認めたら軽くなりますよ」と。

「絶対にやってはいけないこと」

人格否定。これは何度も言われた。

むやみに身体に触れること。逃げようとしたときガードして多少触れてしまう分にはいいが、基本は触れてはいけない。誤認のときは当然ダメ。

泣いた場合は?

忘れた。

この手順を聞いたときの正直な感想

これ、俺にできるのかな。

SECTION 06

誤認のリスク。
研修の半分以上がこの話だった。

かなり厳しく教わった。
社長の口調が変わったわけではない。丁寧なままだった。
でも、繰り返しの回数が明らかに多かった。

1 : 100

1件の誤認は、
100件の検挙と同じくらいの重みがあります。

── 社長

社長が過去の事例を話してくれた。

そのひとはめちゃくちゃ優秀なGメンで、バンバン検挙していて、得意先からもめちゃくちゃ気に入られていた。

でも一件の誤認以降、その得意先から避けられることもあった。

本当かどうかはわからない。
でも、とりあえずこの警備会社にとって誤認が一番してほしくないことなのは伝わってきた。軽い遅刻よりもよっぽどダメなこと。


誤認を防ぐための鉄則 ──「3秒ルール」

RULE ── 3秒ルール

「3秒目を離したら、もうダメです。
今回はあきらめてください。」

もしかしたら商品を別の場所に
ポイッとすばやく置き戻したかもしれないから。

絶対に手を見て、途中で目を離したらもうダメ。

3秒目を離したら、もう誤認の可能性がある。今回はあきらめろと。
もしかしたら商品を別の場所にポイッとすばやく置き戻したかもしれないから。

「現認」という言葉

出てきた。
商品を手に取る → 隠す → レジを通過しない──
その全プロセスを自分の目で見ることを「現認」と呼ぶ。

商品を手に取り、隠す瞬間を自分の目で見る= 現認
そこから一度も目を離さない3秒離したらアウト。戻した可能性を排除できない。
店を出た瞬間に声をかける店内ではダメ。「返し忘れてた」と言われるから。
3秒離した時点で → 今回はあきらめる声掛けの根拠がなくなる。

防犯カメラとの連携

あんまり話が出なかった。
そういえば出てきてないな。

法律の話

出た。刑事訴訟法213条。現行犯逮捕と私人逮捕について。
Gメンが法的にどの立場にいるのか。

誤認の話を聞いたときの正直な感想

こわいな、と思った。
結構プレッシャーになりそうだなと。

時給安いくせに、とは思った。
SECTION 07

勤務報告書の書き方

報告書の項目

1
名前
2
勤め先の店舗
3
勤務時間
4
検挙の記録万が一検挙した場合、何を何点押さえたかを書く欄。
5
勤務報告(メイン)どんな怪しい人物がいて、なぜ注視したのか。どんな行動をとっていったのか。無事を確認したのか。

先輩が書いた報告書(社長が個人情報を隠してプリントアウトしたもの)

「先時刻場所にて37歳前後のグレーの帽子をかぶったグレーのスウェットパーカー、茶色のズボン、170cm前後の男性を冷蔵コーナーで確認。棚前で体をかがめ手に取りやすい蒲鉾を一気に手に載せていて、スウェットにはポケットがあったため入れられる可能性を懸念して注視した──」

こんな感じ。
記入の練習はなかった。

SECTION 08

一日の流れ・服装NG・連絡ルール

一日の流れ

1
勤務10分前に入店売り場で店長・副店長を探す。見つからなければ近くの店員に聞く。
2
店長に挨拶自分がどういう者か名乗り「本日はよろしくお願いします」。マスクと帽子を取って挨拶すること。
3
巡回(7時間勤務)一日一店舗。複数店舗を回ることはない。
4
勤務報告書を提出して退店提出時もマスクと帽子を取って挨拶。

服装のNG

キャラもの。あとマフラーなど掴まれやすいもの。

現場への持ち物

クリップボード、ペン、勤務報告書。

店舗スタッフとの関係

基本あまり関わらない。それぞれの業務に従事するため。
ただし愛想よく挨拶はすること。
入るときと報告書を提出するときはしっかりとマスクと帽子を取って挨拶をすること。

社長への連絡方法

電話。その次にメール。

電話は絶対出ないといけない。
結構厳しく言われる。過去にそれで怒られたことがあった。
SECTION 09

研修中の空気。社長の冗談。先輩Gメンの第一印象。

社長の教え方は丁寧だった。
ただし少々冗談を挟んでくる。

牛脂をその場でなめて店内を歩く人がいるとか──
そういうちょっとした実演はいらなかった。少々不快。

先輩Gメンにも会った。

え? めっちゃ普通じゃん。
たしかにスーパーにいてもわからんわ。

研修中、「この仕事やっていけそうだ」と思った瞬間はない。

逆に「やばいかも」と思ったのは、誤認の怖さを知ったとき。
責任感と正確性が求められる仕事だと知ったとき。

研修中に質問したかどうかは──忘れた。
雑談は特にない。

SECTION 10

研修が終わって。母とおばあちゃんが迎えに来た。

15時に研修が終わった。

母とおばあちゃんが迎えに来た。

このあと一緒にご飯を食べようと、18時からパンの食べ放題に行く予定だったので、それまでイオンとかパン屋とかをぷらぷらした。

帰り道の気分は──

わくわくしていた。

研修のメモはその当日はあまり見返さなかった。
実際に店舗に入りますよとなってから見返すようになった。

SECTION 11

今振り返って。研修だけでは足りなかったこと。

研修で教わったことの中で、現場で一番役に立ったのは

棚の間を注視すること。
人々が固まっているところじゃなくて、人々が見張っていないところで万引きは起こりやすい。

「教わったけど現場では全然違った」こと

現場では、見張るというよりどうしても牽制要員としての印象が強い。

そして主婦が有利だということ。

だって平日のまっぴるまに24歳の若い男が長時間売り場にいるだけでも怪しいじゃん。警戒される。

研修だけでは足りなかったと思うこと

給料のもらい方。
今あの研修を受け直したら、真っ先にそれを質問する。


この記事を読んでいる人へ

Gメンは単純な仕事に思えるかもしれない。

でも結構真剣にやろうとすると大変だ。体力もいるし、何より正確性が求められる。給料の話を差し置いてその話が繰り返しされたんだ。

ネタでやろうと思うなら、その時点であなたは続かないかもしれない。


出会った優秀な隊員の話

検挙のうまい隊員に出会ったことがある。32歳前後の女性の方だ。

イヤホンをして音楽を聴いているようだったけど、社長は文句を言うことなく、むしろ褒めていた。

社長

「ああ見えても○○さんって超優秀で。」


男社会に入り込みすぎだ

平日の昼間に店内にいる20代の男が少なすぎる。

いたとしても会社の合間をぬって弁当を買いに来る社会人ばかり。

それではだめだよ日本、と思いました。

DATA

EP.18 研修の全体像 ── 整理

項目内容
研修日採用から約10日後
時間10:00 – 15:00(約5時間)
場所面接と同じ雑居ビルの事務所
参加者4名(自分+他3名)
講師社長(1名)
服装黒〜グレーの中間色のシャツ、ジーパン
持ち物メモ・ペン・必要書類・身分証・身元保証人書類・住民票コピー・免許証コピー
昼食600円のからあげ弁当(弁当屋が配達・その場で会計)
研修構成①注意事項(最長)→②見分け方・声掛け→③一日の流れ→④報告書→⑤暴力対処(最短)
現認手に取る→隠す→レジを通さないを自分の目で見る
3秒ルール3秒手から目を離したら → あきらめる
誤認の重み1件の誤認 = 100件の検挙
声掛けセリフ「何か心当たりはありませんか」
声掛けタイミング必ず店の外に出てから
絶対NG人格否定・むやみに身体に触れること
法律刑事訴訟法213条・現行犯逮捕・私人逮捕
報告書名前・店舗・時間・検挙記録・勤務報告
服装NGキャラもの・マフラーなど掴まれやすいもの
連絡方法電話(絶対出る)→ メール
研修後の気分わくわくしていた
CONCLUSION

5時間の研修で、一番長かったのは「やるな」の話だった。

捕まえ方を教わった。見分け方を教わった。声のかけ方を教わった。

でもそれ以上に、間違えたらどうなるかを教わった。

1件の誤認は100件の検挙と同じ重み。
3秒目を離したら、もうダメ。あきらめてください。
人格否定は絶対にしてはいけない。

社長は丁寧な口調のまま、何度も同じことを言った。


研修で「この仕事やっていけそうだ」と思った瞬間はなかった。
逆に「やばいかも」と思ったのは、誤認の怖さを知ったとき。

でも、研修が終わったとき──

わくわくしていた。

母とおばあちゃんが迎えに来て、イオンとパン屋をぷらぷらして、18時からパンの食べ放題に行った。

メモ紙2ページ分の知識を頭に詰め込んで、
600円のからあげ弁当の味を思い出しながら。


次の記事では、実際にスーパーに立って何を見たかを書く。
研修で教わったことが、現場でどう変わったか。
平日のまっぴるまに24歳の男が売り場に立ち続ける違和感。
イヤホンをした優秀な女性隊員。
そしてこの仕事の、思った以上の孤独。

1件の誤認は、
100件の検挙と同じ重み。

3秒目を離したら、
もうあきらめてください。

EP.18 ── 万引きGメン篇②

万引きGメン篇、全3部作。これはその第2部。

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