「万引きGメン」に応募した。
面接中にガチの通報が入って、
即採用された。
時給1,200円。雑居ビルの一室。社長との面接30分。
「スーパー歩き回るの好きなんで」と言ったら笑われて、
その場で採用が決まった。これはそこに至るまでの話。
時給
その場で即採用
お年玉貯金込み
24歳無職。事務員に落ちた直後だった。
大学を卒業して、無職だった。
就活は兼ねていた。でも「兼ねていた」というのは言い訳で、実態は何もしていない時間がだらだら続いている状態だった。
月の生活費は6万ちょい。貯金はお年玉を合わせて57万。実家にいたから家賃はかからない。食えないわけじゃない。でも、何かが削れていく感覚はあった。金じゃない。時間だ。
データ入力、事務員、パソコンでできる系。そのへんに応募していた。一社、事務員に落ちた。ついこないだの話だ。
精神状態を一言で言うなら、退屈、しんどい、やる気がない。
動物に例えるとアリクイ。
──でもアリクイは、舌を伸ばして獲物を探し続ける。俺もそうだった。
くすぶっていた。腐っていたという表現は嫌いだ。くすぶっていた。もう少し俺に才能があればなぁ、とは思っていた。
SECTION 02布団の中で「万引きGメン」と出会った
事務員に落ちた夜。布団の中でスマホをいじっていた。某求人サイト。
画面をスクロールしていたら、目に入った。
「万引きGメン」
求人のレイアウトはシンプルだった。会社のホームページもシンプル。情報量が少ない。でも、その文字列だけが異様に目を引いた。
万引きGメンという仕事の存在を、初めて知ったわけじゃない。
小学生のころ、「警察24時」みたいな番組をよく見ていた。万引き犯が店を出た瞬間に声をかける。Gメンが追いかける。カメラが揺れる。犯人が泣く。
こんなかっこいい仕事もあるんだな。それが最初の印象だった。同時に、怖いとも思った。
万引き犯を見つけて、声をかける。テレビの中のヒーロー。あの緊張感。
犯人が逆ギレする。追いかける。誤認したらどうなる。怖さもセットだった。
かっこいいと怖いが同居している仕事。小学生の記憶に残るには十分だった。
それから十数年。大学を出て無職になった俺の目の前に、あの仕事が求人として転がっていた。
SECTION 03なぜ万引きGメンを選んだのか
受かったのがそこだから。
──これが一番大きい理由だ。事務員に落ちたばかりだった。次を探す必要があった。そのタイミングで目に入ったのが、万引きGメンだった。
でも消去法だけじゃない。もう一つの理由があった。
もしかしたら、
人を観察する才能が、
あるかもしれない。
このまま何の才能もないまま終わるのは嫌だから。探り続ける。
観察が得意かどうかは分からない。でも何かに秀でているかもしれないという可能性を、まだ捨てたくなかった。
万引きGメンは「観察」が仕事だ。スーパーを歩き回りながら、人の動きを見る。俺にそれが向いているかどうか、試してみたかった。
金銭的な動機は10段階で3くらい。時給1,200円は、万引きGメンの相場のど真ん中だ。求人ボックス・タウンワーク調べで万引きGメン(私服保安員)の時給相場は1,000〜1,500円。稼ぎたいなら他にいくらでもある。
「人と関わらなくてよさそう」という動機もゼロではなかった。でも実は、この時期の俺は逆だった。無職期間が長くなって、むしろ人と多少は関わる仕事がしたいと思い始めていた。矛盾しているが、人間とはそういうものだ。
つなぎのつもりだった。キャリアだとは思っていない。まずは3ヶ月。そこから先は、事務員を経験しようと思っていた。
SECTION 04万引きGメンを始めたら、親と車で揉めた
万引きGメンの仕事には、車が必要だった。
スーパーへの移動に使う。現場は日によって変わる。公共交通機関では間に合わない場所もある。つまり家の車を借りる必要がある。
父は普段バス通勤だ。でも土日は車でどこかに出かけたい。万引きGメンの仕事は土日関係ない。むしろ土日のほうが見張るべき対象者が多くなる。つまり土日こそ車が必要になる。
ここで揉めた。
「なんかこわいね。大丈夫なの? あぶなくない?」
典型的な心配性の返答。挑戦しない親の、挑戦しない言葉。
──親はそれが、ものすごく気に入らなかったらしい。
気持ちは分かる。子供の貯金が減ることへの不安。それは理解できる。
でも俺は24歳だ。自分の金をどう使うかは自分で決める。やりたいなら飛び込む。どうせ先に死ぬ存在だ。心配性の親なら、なおさら強引に振り払ったほうがいい。
結果的に、バイクは買わなかった。車を共有する形で落ち着いた。でもあの夜の空気は、しばらく家に残った。
SECTION 05応募に迷いはなかった
応募は電話じゃなかった。求人サイトからポチっと。布団の中から。
迷いはなかった。ついこないだ事務員に落ちたばかりだ。迷っている余裕がない。とりあえず応募する段階だった。
応募した直後、頭の中に浮かんだことが二つある。
車、大丈夫かな。
親との共有で本当にやっていけるのか。
人を観察する才能が、あるかもしれない。
秘められた才能に対する願い。
このまま何の才能もないまま終わるのは嫌だった。だから探り続ける。それだけだ。
応募してすぐ、メールが来た。いきなり事務所に来てくれと。
SECTION 06万引きGメンの面接会場。
雑居ビルの一室、トイレが汚くて足音が響く。
面接の日。電車で向かった。晴れていた。
イヤホンからはチャーリーXCXとハルヒのOPが流れていた。この組み合わせに脈絡はない。当時のプレイリストがそうだっただけだ。
服はユニクロCのパーカー。スーツじゃない。求人にスーツで来いとは書いてなかった。
建物に着いた。雑居ビル。
なのに、意外とにおいがしない。後に働くことになるモバイル販売の休憩室のほうが、よっぽどにおう。
足音がめちゃくちゃ響く。事務所の階まで歩いていくだけで「誰か来たな」が伝わる構造になっている。
万引きGメンの事務所が入っている建物の時点で、もう空気が違った。きれいじゃない。洗練されていない。でも、それがリアルだった。
SECTION 07面接官は、警備会社の社長だった
警備会社の社長
170cm後半。体格がいい。でも少し丸みのある愛嬌がある。白髪交じり。しっかりとしたビジネスマンの喋り方をする人だった。服装はスーツではなく、グレーのシンプルなニット。声は低い。でも張ろうと思えば営業用のワントーン高い会話もできる。
──EP.15で書いた身長の法則を、ここでも思い出す。万引きGメン時代に見上げ続けた店長たちは170cm後半以上が多かった。この社長も、約176cm。やはり上に立つ人間は物理的にデカい。
空気はゆるかった。堅い面接を想像していたが、全然違った。
SECTION 08万引きGメンの面接で聞かれた7つの質問
一番印象に残っているのはQ1だ。「スーパー歩き回るの好きなんで」と言ったら、社長が面白そうに少し笑ってくれた。「いいじゃないですか」と。
それだけで、少し安心した。
SECTION 09面接中に、リアルの万引き通報が入った
面接の終盤。社長のスマホが鳴った。
現場のGメン隊員からだった。怪しい人物がいる、という通報。
「絶対カメラおさえてくださいよ。」
社長が俺の目の前で、電話越しに指示を出した。
少し怖かった。
面接中に、リアルの万引き通報が入る。この仕事のリアリティが、一気に目の前に来た。
そんなことが、本当にあるんだ。
テレビの中の世界だと思っていた。でもこの社長のスマホには、今まさにスーパーで怪しい動きをしている人物の情報が入ってきている。そしてその対応を、俺の目の前で指示している。
「万引きGメン」が急にテレビの外に出てきた瞬間だった。
SECTION 10万引きGメンの面接、即採用。30分。
面接は30分で終わった。
合格が決まったから、
そのまま事務手続きで計1時間。
「書類や注意事項を渡されないんだ」と思った。小規模な事務所だから仕方ない。後に知ることになるが、給料の振り込みが遅れることもあったし、シフトが送られてくるのも遅い時があった。でもそれは、この規模の事務所では仕方のないことだった。
採用を知った瞬間の気持ち。
まじか、ここで決まるのか。
結構嬉しいな。
採用から初出勤までの2週間
採用から初出勤まで、約2週間あった。
その間、何をしていたか。自転車で動画を撮るためにぶらぶらしていた。万引きGメンについて調べたかと言われると、あんまり。YouTubeで少し見たくらいだ。
調べて分かったこと。誤認すると、結構めんどい。
文春オンライン「万引きGメンの仕事は過酷だ」
それを知っても、不安より楽しみのほうが勝っていた。
初日の前夜。楽しみだった。純粋に。
万引きGメン初日の持ち物と服装
ボード(クリップボード)
勤務報告書
ペン
メモ帳
目立たない服。
キャラものNG。
グレーがベスト。
──「客に見えること」が仕事だから。
※ 初出勤の前に、事務所での研修が1日あった。研修で何を教わったかは、次の記事で全部書く。
SECTION 12初日の朝。4時に目が覚めた。
店舗での初日。朝4時に目が覚めた。
勤務先は隣町のスーパー。車で行けば30分の距離を、自転車で1時間半かけて行くことになった。20km。
EP.16で書いた派遣の顔合わせも自転車27kmだった。俺の人生、自転車で長距離を走るエピソードが多すぎる。
うきうきしていた。緊張もあったが、それ以上に「今日から万引きGメンだ」という事実が、小学生のころテレビの前で感じたあの興奮に近かった。
DATA万引きGメンに応募した時点の俺 ── 整理
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 年齢 | 24歳 |
| 状態 | 大学卒業後、無職(就活兼ねる) |
| 直前の不採用 | 事務員 |
| 求人の発見 | 某求人サイト(布団の中で) |
| 求人の表記 | そのまま「万引きGメン」 |
| 時給 | ¥1,200(相場¥1,000〜1,500) |
| 勤務時間 | 7時間 |
| 雇用形態 | アルバイト |
| 面接 | 警備会社の社長と1回 / 30分 / 即採用 |
| 月の生活費 | 約6万円 |
| 全財産 | 約57万円(お年玉貯金込み) |
| 精神状態 | 退屈。しんどい。やる気がない。 |
| 将来のビジョン | この仕事を、いつか発信してやろう |
| 予定期間 | まず3ヶ月 |
| 親の反応 | 「怖い」「大丈夫?」── 車で揉めた |
才能を探すために、求人を押した
大学を出て、事務員に落ちて、布団の中で求人を眺めていた。
「万引きGメン」という文字列が目に入った。小学生のころテレビで見た、かっこよくて怖い仕事。それが求人として、スマホの画面に転がっていた。
時給1,200円。7時間。アルバイト。
面接は雑居ビルで社長と30分。その場で即採用。
親とは車で揉めた。「怖い」「大丈夫なの?」と言われた。
典型的な心配性の親の、典型的な挑戦しない言葉だった。
でも俺は応募した。
金のためじゃない。キャリアのためでもない。
もしかしたら、人を観察する才能があるかもしれない。
その「もしかしたら」を確かめたかった。
このまま何の才能もないまま終わるのは嫌だった。
だから探り続ける。
才能を探すために、
求人を押した。
やりたいなら発信したいなら、
強引に飛び込んでいけ。
心配性の親なら、
なおさらそうしたほうがいい。
EP.17 ── 万引きGメン篇①
次の記事では、採用後の事務所研修で教わったことを全部書く。万引き犯の見分け方。声のかけ方。誤認した場合のリスク。小学生のころテレビで見たあの世界の裏側を、ノート1冊に叩き込まれた日の記録。
そして3本目では、実際にスーパーに立って何を見たかを書く。
万引きGメン篇、全3部作。これはその第1部。