事務員に落ちた翌日、万引きGメンのバイトに応募した24歳無職の話

EP.17 ── 万引きGメン篇 ① / 3
事務員に落ちた翌日、
「万引きGメン」に応募した。
面接中にガチの通報が入って、
即採用された。

時給1,200円。雑居ビルの一室。社長との面接30分。
「スーパー歩き回るの好きなんで」と言ったら笑われて、
その場で採用が決まった。これはそこに至るまでの話。

¥1,200求人に書いてあった
時給
30min面接の所要時間
その場で即採用
¥57万当時の全財産
お年玉貯金込み
SECTION 01

24歳無職。事務員に落ちた直後だった。

大学を卒業して、無職だった。

就活は兼ねていた。でも「兼ねていた」というのは言い訳で、実態は何もしていない時間がだらだら続いている状態だった。

月の生活費は6万ちょい。貯金はお年玉を合わせて57万。実家にいたから家賃はかからない。食えないわけじゃない。でも、何かが削れていく感覚はあった。金じゃない。時間だ。

データ入力、事務員、パソコンでできる系。そのへんに応募していた。一社、事務員に落ちた。ついこないだの話だ。

精神状態を一言で言うなら、退屈、しんどい、やる気がない。

動物に例えるとアリクイ。
──でもアリクイは、舌を伸ばして獲物を探し続ける。俺もそうだった。

くすぶっていた。腐っていたという表現は嫌いだ。くすぶっていた。もう少し俺に才能があればなぁ、とは思っていた。

SECTION 02

布団の中で「万引きGメン」と出会った

事務員に落ちた夜。布団の中でスマホをいじっていた。某求人サイト。

画面をスクロールしていたら、目に入った。

「万引きGメン」

求人のレイアウトはシンプルだった。会社のホームページもシンプル。情報量が少ない。でも、その文字列だけが異様に目を引いた。

万引きGメンという仕事の存在を、初めて知ったわけじゃない。

小学生のころ、「警察24時」みたいな番組をよく見ていた。万引き犯が店を出た瞬間に声をかける。Gメンが追いかける。カメラが揺れる。犯人が泣く。

こんなかっこいい仕事もあるんだな。それが最初の印象だった。同時に、怖いとも思った。

COOL

万引き犯を見つけて、声をかける。テレビの中のヒーロー。あの緊張感。

SCARY

犯人が逆ギレする。追いかける。誤認したらどうなる。怖さもセットだった。

かっこいいと怖いが同居している仕事。小学生の記憶に残るには十分だった。

それから十数年。大学を出て無職になった俺の目の前に、あの仕事が求人として転がっていた。

SECTION 03

なぜ万引きGメンを選んだのか

受かったのがそこだから。

──これが一番大きい理由だ。事務員に落ちたばかりだった。次を探す必要があった。そのタイミングで目に入ったのが、万引きGメンだった。

でも消去法だけじゃない。もう一つの理由があった。

もしかしたら、
人を観察する才能が、
あるかもしれない。

このまま何の才能もないまま終わるのは嫌だから。探り続ける。

観察が得意かどうかは分からない。でも何かに秀でているかもしれないという可能性を、まだ捨てたくなかった。

万引きGメンは「観察」が仕事だ。スーパーを歩き回りながら、人の動きを見る。俺にそれが向いているかどうか、試してみたかった。

1
受かったのがそこだった事務員に落ちた直後。次の求人で目に入った。
2
体験談として発信できそうだった「この仕事のことを、いつか発信してやろう」──その直感。
3
観察の才能があるかもしれないと思った何の才能もないまま終わるのは嫌だった。探り続ける。
4
純粋に面白そうだったかっこいい。怖い。そのどっちも、好奇心だった。

金銭的な動機は10段階で3くらい。時給1,200円は、万引きGメンの相場のど真ん中だ。求人ボックス・タウンワーク調べで万引きGメン(私服保安員)の時給相場は1,000〜1,500円。稼ぎたいなら他にいくらでもある。

「人と関わらなくてよさそう」という動機もゼロではなかった。でも実は、この時期の俺は逆だった。無職期間が長くなって、むしろ人と多少は関わる仕事がしたいと思い始めていた。矛盾しているが、人間とはそういうものだ。

つなぎのつもりだった。キャリアだとは思っていない。まずは3ヶ月。そこから先は、事務員を経験しようと思っていた。

SECTION 04

万引きGメンを始めたら、親と車で揉めた

万引きGメンの仕事には、車が必要だった。

スーパーへの移動に使う。現場は日によって変わる。公共交通機関では間に合わない場所もある。つまり家の車を借りる必要がある。

父は普段バス通勤だ。でも土日は車でどこかに出かけたい。万引きGメンの仕事は土日関係ない。むしろ土日のほうが見張るべき対象者が多くなる。つまり土日こそ車が必要になる。

ここで揉めた。

「なんかこわいね。大丈夫なの? あぶなくない?」

典型的な心配性の返答。挑戦しない親の、挑戦しない言葉。

「そんなぐちぐち言うんだったらバイクでも買うわ。小さい頃から貯めてたお年玉貯金があるだろ。今どんどんその価値が物価高で下がり始めとる。」

──親はそれが、ものすごく気に入らなかったらしい。

気持ちは分かる。子供の貯金が減ることへの不安。それは理解できる。

でも俺は24歳だ。自分の金をどう使うかは自分で決める。やりたいなら飛び込む。どうせ先に死ぬ存在だ。心配性の親なら、なおさら強引に振り払ったほうがいい。

結果的に、バイクは買わなかった。車を共有する形で落ち着いた。でもあの夜の空気は、しばらく家に残った。

SECTION 05

応募に迷いはなかった

応募は電話じゃなかった。求人サイトからポチっと。布団の中から。

迷いはなかった。ついこないだ事務員に落ちたばかりだ。迷っている余裕がない。とりあえず応募する段階だった。

応募した直後、頭の中に浮かんだことが二つある。

WORRY

車、大丈夫かな。
親との共有で本当にやっていけるのか。

HOPE

人を観察する才能が、あるかもしれない。
秘められた才能に対する願い。

このまま何の才能もないまま終わるのは嫌だった。だから探り続ける。それだけだ。

応募してすぐ、メールが来た。いきなり事務所に来てくれと。

SECTION 06

万引きGメンの面接会場。
雑居ビルの一室、トイレが汚くて足音が響く。

面接の日。電車で向かった。晴れていた。

イヤホンからはチャーリーXCXとハルヒのOPが流れていた。この組み合わせに脈絡はない。当時のプレイリストがそうだっただけだ。

服はユニクロCのパーカー。スーツじゃない。求人にスーツで来いとは書いてなかった。

建物に着いた。雑居ビル。

決定的にトイレが汚かった。

なのに、意外とにおいがしない。後に働くことになるモバイル販売の休憩室のほうが、よっぽどにおう。

足音がめちゃくちゃ響く。事務所の階まで歩いていくだけで「誰か来たな」が伝わる構造になっている。

万引きGメンの事務所が入っている建物の時点で、もう空気が違った。きれいじゃない。洗練されていない。でも、それがリアルだった。

SECTION 07

面接官は、警備会社の社長だった

INTERVIEWER

警備会社の社長

170cm後半。体格がいい。でも少し丸みのある愛嬌がある。白髪交じり。しっかりとしたビジネスマンの喋り方をする人だった。服装はスーツではなく、グレーのシンプルなニット。声は低い。でも張ろうと思えば営業用のワントーン高い会話もできる。

──EP.15で書いた身長の法則を、ここでも思い出す。万引きGメン時代に見上げ続けた店長たちは170cm後半以上が多かった。この社長も、約176cm。やはり上に立つ人間は物理的にデカい。

空気はゆるかった。堅い面接を想像していたが、全然違った。

SECTION 08

万引きGメンの面接で聞かれた7つの質問

Q1
なぜ応募したのか「スーパー歩き回るの好きなんで」──社長が少し笑った。「いいじゃないですか」。
Q2
スーパーとか歩き回るの苦じゃないか?苦じゃない。むしろ好きだ。
Q3
観察眼はすぐれているほうか?──ここだけ、少し考えた。分からない。でも「そうでありたい」とは思っていた。
Q4
視力はいいか?問題ない。
Q5
車の運転はできるか?できる。親の車を使うことになるが。
Q6
時間はきちんと守れるか?守れる。
Q7
万引きGメンの仕事はテレビかYouTubeで見たことある?小学生のころ、警察24時で。

一番印象に残っているのはQ1だ。「スーパー歩き回るの好きなんで」と言ったら、社長が面白そうに少し笑ってくれた。「いいじゃないですか」と。

それだけで、少し安心した。

SECTION 09

面接中に、リアルの万引き通報が入った

面接の終盤。社長のスマホが鳴った。

現場のGメン隊員からだった。怪しい人物がいる、という通報。

LIVE ── 面接中に入った通報

「絶対カメラおさえてくださいよ。」

社長が俺の目の前で、電話越しに指示を出した。

少し怖かった。

面接中に、リアルの万引き通報が入る。この仕事のリアリティが、一気に目の前に来た。

そんなことが、本当にあるんだ。

テレビの中の世界だと思っていた。でもこの社長のスマホには、今まさにスーパーで怪しい動きをしている人物の情報が入ってきている。そしてその対応を、俺の目の前で指示している。

「万引きGメン」が急にテレビの外に出てきた瞬間だった。

SECTION 10

万引きGメンの面接、即採用。30分。

面接は30分で終わった。

即採用。

合格が決まったから、
そのまま事務手続きで計1時間。

「書類や注意事項を渡されないんだ」と思った。小規模な事務所だから仕方ない。後に知ることになるが、給料の振り込みが遅れることもあったし、シフトが送られてくるのも遅い時があった。でもそれは、この規模の事務所では仕方のないことだった。

採用を知った瞬間の気持ち。

まじか、ここで決まるのか。
結構嬉しいな。

SECTION 11

採用から初出勤までの2週間

採用から初出勤まで、約2週間あった。

その間、何をしていたか。自転車で動画を撮るためにぶらぶらしていた。万引きGメンについて調べたかと言われると、あんまり。YouTubeで少し見たくらいだ。

調べて分かったこと。誤認すると、結構めんどい。

DATA ── 万引きGメンの誤認リスク 万引きGメン(保安員)が万引き犯でない人を誤って確保した場合、名誉毀損・人権侵害・損害賠償に発展するリスクがある。文春オンラインの取材記事では「1つ間違えれば訴訟リスク」と報じられている。

文春オンライン「万引きGメンの仕事は過酷だ」

それを知っても、不安より楽しみのほうが勝っていた。

初日の前夜。楽しみだった。純粋に。

万引きGメン初日の持ち物と服装

ITEMS

ボード(クリップボード)
勤務報告書
ペン
メモ帳

DRESS CODE

目立たない服。
キャラものNG。
グレーがベスト。
──「客に見えること」が仕事だから。

※ 初出勤の前に、事務所での研修が1日あった。研修で何を教わったかは、次の記事で全部書く。

SECTION 12

初日の朝。4時に目が覚めた。

店舗での初日。朝4時に目が覚めた。

勤務先は隣町のスーパー。車で行けば30分の距離を、自転車で1時間半かけて行くことになった。20km。

車なら 30
VS
自転車だと 90分(20km)

EP.16で書いた派遣の顔合わせも自転車27kmだった。俺の人生、自転車で長距離を走るエピソードが多すぎる。

うきうきしていた。緊張もあったが、それ以上に「今日から万引きGメンだ」という事実が、小学生のころテレビの前で感じたあの興奮に近かった。

DATA

万引きGメンに応募した時点の俺 ── 整理

項目内容
年齢24歳
状態大学卒業後、無職(就活兼ねる)
直前の不採用事務員
求人の発見某求人サイト(布団の中で)
求人の表記そのまま「万引きGメン」
時給¥1,200(相場¥1,000〜1,500)
勤務時間7時間
雇用形態アルバイト
面接警備会社の社長と1回 / 30分 / 即採用
月の生活費約6万円
全財産約57万円(お年玉貯金込み)
精神状態退屈。しんどい。やる気がない。
将来のビジョンこの仕事を、いつか発信してやろう
予定期間まず3ヶ月
親の反応「怖い」「大丈夫?」── 車で揉めた
CONCLUSION

才能を探すために、求人を押した

大学を出て、事務員に落ちて、布団の中で求人を眺めていた。

「万引きGメン」という文字列が目に入った。小学生のころテレビで見た、かっこよくて怖い仕事。それが求人として、スマホの画面に転がっていた。

時給1,200円。7時間。アルバイト。
面接は雑居ビルで社長と30分。その場で即採用。


親とは車で揉めた。「怖い」「大丈夫なの?」と言われた。
典型的な心配性の親の、典型的な挑戦しない言葉だった。

でも俺は応募した。

金のためじゃない。キャリアのためでもない。

もしかしたら、人を観察する才能があるかもしれない。

その「もしかしたら」を確かめたかった。
このまま何の才能もないまま終わるのは嫌だった。
だから探り続ける。

才能を探すために、
求人を押した。

やりたいなら発信したいなら、
強引に飛び込んでいけ。

心配性の親なら、
なおさらそうしたほうがいい。

EP.17 ── 万引きGメン篇①


次の記事では、採用後の事務所研修で教わったことを全部書く。万引き犯の見分け方。声のかけ方。誤認した場合のリスク。小学生のころテレビで見たあの世界の裏側を、ノート1冊に叩き込まれた日の記録。

そして3本目では、実際にスーパーに立って何を見たかを書く。

万引きGメン篇、全3部作。これはその第1部。

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