自転車で27kmこいで派遣の顔合わせというなの面接に行ったら「彼女いる?」と聞かれて落ちた話

EP.16 ── 仕事遍歴シリーズ
自転車で27kmこいで
派遣の顔合わせに行ったら
「彼女いる?」と聞かれて落ちた話

EP.10で書いた「1社目のかっちかちの面接」を、もっと深く掘る。
あの部屋で何が起きていたのか。全部書く。

27km自転車で片道
1時間30分
45min「顔合わせ」の
所要時間
¥0支給された
交通費
SECTION 01

練習してから行く「顔合わせ」って何だ

顔合わせの前に、Google Meetで30分のロールプレイがあった。

メンターが相手役をやって、こう言った。

メンター / Google Meet

「こういうことを聞かれるよ。笑顔が大切。向こうは売り場になじむかを見ている。当日は髪をセットしてくるように。」

面談でこう答えるようにと指示された内容をメモした紙を、何回も読んだ。

声に出して練習はしなかった。実家だから。
部屋で一人でぶつぶつ言うのは、さすがにきつい。

正直、めんどくさかった。でも緊張はしていた。
その二つは矛盾しない。

1
Google Meet 30分メンターとロールプレイ。想定質問と模範回答を練習。
2
メモした紙を何回も読む声には出さない。実家だから。
3
当日、自転車で出発片道27km。リクルートスーツ。紫のネクタイ。

練習が必要な「顔合わせ」って、何だ。

SECTION 02

紫のネクタイ、革靴、バゲット

当日。かっちかちのリクルートスーツに紫のネクタイ。革靴。

メンターには後日「ちょっとヤンキーっぽい」と言われた。紫のネクタイが原因なのか、俺の雰囲気が原因なのかは今でも分からない。

カバンの中身。メモ、ペン、印鑑。簡単な経歴書はメンターが用意してくれた。
あと、近くのスーパーで買ったバゲット。

27km

電車ではない。自転車だ。
片道1時間30分。

結構余裕を持って出発した。天気は曇り。冬の空気だった。

こいでいるとき、頭の中で一番大きかったのは「なんでこんなことになっているんだろう」だった。

でもわくわくしたんだ。

半年前の自分は、こんなことをしているなんて思いもしなかった。くすぶったままで、まだまだニートなんだろうなと思っていた。無駄に向上心が高くて、どこかで何かしらの発信活動はしているとは思っていたけど。

さて今日のことをどう発信しようか。発信するプラットフォームすら決まっていないのに、うっすら考えていた。

会場のキャリアショップまであと1kmぐらいのところで、近くのスーパーとドラッグストアに寄った。そこであくびが止まらなくなった。こいでいるときは平気だったのに、止まった途端に緊張が身体に出た。

SECTION 03

メンターは俺との約束に遅刻してきた

建物の外観。普通のキャリアショップだ。周りには回転寿司チェーンがあった。駐車場に車が結構停まっていた。それぐらいしか印象がない。

メンターとは店舗前の駐車場で合流する約束だった。顔合わせの15分前に来るように言われていたから、俺はちゃんとその時間に着いた。

メンターが来ない。

バスで来たらしい。ちょっと不便な場所だったのは分かる。
結局メンターが到着したのは、顔合わせの5分前。

自転車で27km
15分前に到着
VS
メンター バスで来た
5分前に到着

顔合わせ自体には遅刻していない。
でも俺との約束には遅刻してきやがった。

面談の部屋は2階だった。店舗の上。メンターが先に入った。

ドアの前に立つ。メンターが先に入っていく。

え? 心の準備まだできてないよ。

──もうどうにでもなれ。
SECTION 04

目が合ったのは、着席してからだった

コンパクトな会議室だった。長方形のテーブル。こちら側に椅子が3つ、向こう側に2つ。照明はちょい明るめ。

水もコーヒーも出されなかった。

相手はすでに座っていた。メンターが入ると、急いで立ち上がった。

第一印象。なんか感じのいい人だなと思った。

でも、俺とは目を合わさない。

俺はそこをちゃんと見抜く。言ったら本日の主役は俺と同じようなものだろう。なのにメンターとばかり顔を合わせている。着席してください。改めてよろしくお願いします。

ここで初めて目が合った。

CLIENT

クライアント担当 ── 47歳ぐらいの男性

港町出身。母とまったく同じ地域で生まれた人だった。第一印象は感じがいい。でも最初に俺と目を合わせなかった。メンターにばかり顔を向けていた。着席の声がかかって、ようやく俺を見た。

メンターはどうだったか。態度がでかいというか、自信がある感じだった。「自分は結構話すの得意で」とか「電車に座ってても隣の人に話しかけちゃうんですよ」とか自分から言っている。

SECTION 05

「そんな緊張しなくて大丈夫です」
──嘘だった

クライアント担当

「改めてよろしくお願いします。そんな緊張しなくて大丈夫です。この仕事に向いているかとか、そういうのをお話ししていくうちに、今後の希望とかやりたいこととか聞けたらいいなと思います。」

和やかだった。でも確実に探られている空気だった。

俺は自己紹介をした。「本日はお時間をいただきありがとうございます」から始めて、派遣会社の正社員であること、大学名、前職、今後は販売員として活躍したい、というところまで。事前に練習した通りだ。

相手は名刺を出さなかった。名前は覚えている。

SECTION 06

聞かれたこと。一部書く。

Q1. 大学時代に頑張ったことは?

「自分は情報を集めるのが好きで、興味ある物事について進んで調べて、それを自分の能力に結びつけられるようにしました。自分の場合それが動画編集だったわけで。」

クライアント担当

「へー、動画とか編集してるんだ。自分でもやってる感じ?」

食いつきは悪くなかった。

Q2. 大学時代、部活やサークルは?

「コロナの時に入学したこともあり、入るタイミングを逃してしまいました。」

クライアント担当

「じゃあ高校の時は?」

「はい、ソフトテニス部に。」

そこに興味を持ったのか、テニスの話になった。ちなみにうまいのかとか聞かれた。

Q3. 自分の強みを教えてください

「自分の強みは、自分にはまったことをコツコツと積み上げていくことができるところです。」

クライアント担当

「継続力だね。それをどうこの売り場で活かせそう?

──詰まった。

頭が真っ白になったわけじゃない。
「コツコツ」と「売り場」がうまく繋がらなかった。
接客で何をコツコツやるのか、自分でも分からなかった。

俺(絞り出した)

「繰り返しの対応の中で、こうしたらうまくいったというのをメモしていって、それを実際の売り場で試していって、接客の探求をしていきたいです。」

悪くない答えだったかもしれない。でも絞り出した感は伝わっていたと思う。

相手の顔を見た。和やかなまま探りを入れている感じ。でも俺が答えづらそうなのを見て、一瞬だけ──本当に一瞬だけ──「この人とはないな」という空気が伝わってきた。

Q4. 彼女はいる?

クライアント担当

「彼女はいる?」

「いません。」

クライアント担当

「えぇ、そうなんだ。なんでだろうね。

──は?

こんなこと聞かれたの初めてだった。あまりにもおかしすぎるだろう。これが「顔合わせ」で聞く質問か?

腹が立った。

「えぇ、そうなんだ。なんでだろうね。」

──こんなこと聞かれたの初めてだった。

顔合わせ中、Q4の直後

Q1
大学時代に頑張ったこと→ 動画編集の話。食いつきは悪くなかった。
Q2
部活・サークル→ コロナで逃した。高校のソフトテニスの話に。
Q3
自分の強み → 売り場でどう活かす?→ 詰まった。一瞬「ないな」の空気が伝わった。
Q4
彼女はいる?→ は? こんなこと聞かれたの初めてだった。
SECTION 07

本当は、こう言いたかった

「なぜ就活を失敗したのか」みたいな話の流れもあった。

WANTED TO SAY

このAI時代に自分のスキルを活かせる職場を見誤ったこと。そのスキルを育ててくれる環境に飛び込む時期が出遅れたこと。だから今ここにいること。

ACTUALLY SAID

「自分の進路に迷っていた」

──かなり抽象的な回答。

伝えたいことが頭の中にあるのに、言葉にならない。

言葉にする訓練をしてこなかったから。

これが就活と「顔合わせ」の最大の違いかもしれない。就活なら定型文で乗り越えられる。でも「顔合わせ」は就活よりもパーソナルに切り込んでくる。

お話しする場を装った、強烈に深い面接だった。

SECTION 08

地元トークで、一瞬だけ空気が変わった

途中、クライアント担当の出身地の話になった。港町だと言った。母とまったく同じ地域だった。

そこで初めて、相手が少し食いついてきた。地元トーク。それまでの「探り」の空気が、ほんの少しだけ緩んだ。

面談の45分間で、いちばん人間らしい時間だった。

SECTION 09

「店舗、見ていく?」
──受かったと思った

クライアント担当

「最後に店舗、見ていく?」

──受かったかもしれない。

なんやかんやあったけど、店舗を見せてくれるということは、ここで働くことを前提にしてくれているんじゃないか。1階に降りて、バックヤードまで見せてもらった。

クライアント担当

「結果はまたすぐ連絡します。これからよろしくお願いします。

「これからよろしくお願いします」──この言葉で、俺は確信に近いものを感じていた。

頭を深く下げた。相手も深めに下げてくれた。

メンターは俺と一緒に退出しなかった。「クライアントとまだ話したいことがあるから」と残った。多分、合否の話をするんだろう。

店を出る。駐車場を横切って、近くのスーパーに停めた自転車に向かう。

クライアント担当は、バス停のある方角に歩いていく俺を少しだけ見送って、すぐ店に入っていった。

受かったかもな。
そう思いながら、また27kmをこぐ。
SECTION 10

翌日。電話が鳴った。

メンター / 電話

「○○さんが売り場に立っているところが、想像できなかったそうです。

不採用。

「売り場に立っているところが、
想像できなかった。」

メンターからは少しだめ出しもされた。「言葉にちょっと詰まっちゃった部分があったので」と。

分かっている。分かっているんだよ。

「これからよろしくお願いします」は何だったんだ。店舗を見せてくれたのは何だったんだ。バックヤードまで案内してくれた、あの最後の方の気前のよさは何だったんだ。

悔しかった。

「これからよろしく
お願いします」
店舗見学。バックヤード案内。
深めのお辞儀。
「売り場に立っているところが
想像できなかった」
翌日。メンターからの電話。
不採用。

「これからよろしくお願いします」は、
何だったんだ。

不採用連絡を受けた直後

SECTION 11

母に話した

母 / 対面

「その企業大丈夫? 交通費も払わないで、1時間近い面接させて、それで落とすの?」

正論だと思った。でもそれだけじゃなかった。俺も緊張しすぎていたのかもしれない。あほくさ、とも思った。

ただ、母がそう言うと余計悲しくなるんだよ。

自分が否定されたことを、いちばん近い人に確認されている感じがして。

SECTION 12

ちなみに「彼女いる?」は
法律的にアウトだった

あとから調べた。まず、あの「顔合わせ」自体が法律的にグレーだ。

LAW 01 ── 特定目的行為の禁止 労働者派遣法 第26条 第6項

派遣先企業が、労働者派遣契約の締結に際し、派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない。事前面接、履歴書の提出要求、年齢・性別による限定などが含まれる。

厚生労働省「特定目的行為の禁止について」(PDF)
LAW 02 ── 聞いてはいけない質問 厚生労働省「公正な採用選考の基本」

交際状況・結婚予定など「本来自由であるべき事項」に関する質問は、就職差別につながるおそれがあるとされている。

派遣の顔合わせでは、結婚・交際・出産に関することを聞くことも特定行為とみなされる。

厚生労働省「採用選考時に配慮すべき事項」
「彼女いる?」「なんでだろうね。」

あの質問は少なくとも2つの意味でアウトだった。

派遣の顔合わせで選考行為をしていること自体が労働者派遣法の趣旨に反する

交際の有無という業務に無関係な個人情報を聞いている

あのとき俺は「腹が立った」としか感じなかった。でも今振り返ると、腹を立てる以前に、あれはやってはいけないことだった。

SECTION 13

あの顔合わせが残したもの

結構残ったよ。この面接は。

発信の種になった。「派遣の顔合わせってこういうことを聞かれるんだ」という体験そのものが、書くべきものになった。

そして悔しさが残った。「売り場に立っているところが想像できなかった」──この言葉は、EP.10で書いた通り、今でも喉に残っている。


あの顔合わせが終わった後、俺は2社目と3社目の顔合わせに行き、3社目に即決で送り込まれ、家電量販店のモバイル販売コーナーに立つことになる。そこで何が起きたかは、EP.07からEP.15まで書いてきた通りだ。

1社目に受かっていたら、あの売り場には立っていなかった。

ティッシュも配っていなかった。トランシーバー男にも会っていなかった。「ずっとここに立ってたら、おかしくなりますよ」という言葉も聞いていなかった。

あの部屋で45分間話した結果、「想像できなかった」と言われたことで、俺の人生は3社目に流れた。

DATA

1社目の顔合わせ ── 整理

項目内容
場所某キャリアショップ 2階会議室
移動手段自転車(片道27km / 1時間30分)
交通費0円(自腹)
服装リクルートスーツ+紫のネクタイ+革靴
同席者メンター(遅刻して5分前到着)
相手クライアント担当(47歳ぐらい・男性)
所要時間面談45分 + 店舗見学15分
事前準備Google Meet 30分 + メモ読み込み
結果不採用(翌日連絡)
不採用理由「売り場に立っているところが想像できなかった」
法的に疑わしい質問「彼女はいる?」「なんでだろうね。」
CONCLUSION

想像できなかったのは、お互いさまだ

自転車で27km走って、紫のネクタイを締めて、2階の会議室に入った。Google Meetで練習までして臨んだ「顔合わせ」は、45分間の面接だった。

「大学時代に頑張ったこと」「強み」「部活」。全部聞かれた。「彼女はいる?」まで聞かれた。

「売り場に立っているところが、想像できなかった。」

そう言われて落とされた。


でも、想像できなかったのは向こうだけじゃない。

半年前の俺も、自分がリクルートスーツを着て自転車で27kmこいで、派遣の顔合わせに行くなんて想像できなかった。その顔合わせで彼女の有無を聞かれるなんて想像できなかった。不採用になって、母に「その企業大丈夫?」と言われるなんて想像できなかった。

そしてその後、3社目に即決で送り込まれて、家電量販店のモバイル売り場に立つことになるなんて、もっと想像できなかった。

想像できなかったことだらけの中で、俺は今、全部を文章にしている。

あの部屋で詰まった言葉の代わりに、
ここで全部書く。

「売り場に立っているところが、
想像できなかった。」

──想像できなかったのは、お互いさまだ。

EP.16「派遣の顔合わせを、深く掘る。」

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