「上の人」は、なぜ全員デカかった?──169cmの24歳が2つの現場で見上げ続けた記録。

EP.15 ── 仕事遍歴シリーズ

「背の高い人が上に立つ」は
気のせいじゃなかった。

2つの現場で体感した、身長とヒエラルキーの話。

俺は24歳で、身長は169cm。
日本人の20代男性の平均が約171〜172cm(厚生労働省)だから、同世代の中でもやや低い側にいる。

万引きGメンの現場とモバイル販売の現場。2つのまったく違う職場を経験して、ずっと感じていたことがある。

上に立っている人は、背が高い。
ナンバー2は、そこまでじゃない。


気のせいかと思った。だから数えてみた。

5/7人
Gメン現場で「背が高い」と
感じた店長の数
178cm
2つの職場のトップが
揃ったライン
170cm前半
ナンバー2。
俺とほぼ同じ目線。
SECTION 01

万引きGメンの現場。
挨拶するたびに、見上げていた。

万引きGメンの仕事は、現場に入る前に店長へ挨拶することから始まる。

SCENE バックヤードの扉を開ける。事務所の奥に店長がいる。

「日々の万引きGメンさせていただきます。よろしくお願いします。」

頭を下げて、顔を上げる。
そのとき目線は──少し、上を向いている。

毎回そうだった。何店舗回っても、挨拶のたびに俺は見上げていた。

店長はだいたい178cm後半で、40代が多い。俺との差は約10cm。「この人、背が高いな」と口に出さなくても身体が勝手に認識する距離だ。

何人見てそう感じたか。記憶を辿って数えた。

観測した店長:7人
うち170cm後半以上:5人
うち180cm超:2人

7人中5人が170cm後半以上。180cmを超える人が2人。
これが「気のせい」で片づけられるのか、正直わからなくなった。
178cm〜
店長たち(万引きGメン挨拶先)TOP
だいたい178cm後半。40代が多い。7人中5人が170cm後半以上。24歳の俺が毎回見上げて挨拶する、あの目線の角度が全部を物語っている。

そして、俺が所属する警備会社の社長。

176cm
警備会社の社長TOP
40代後半。約176cm。たまに現場に来る。来るたびにやっぱり見上げる。社長という肩書きの前に、まず身長が「この人は上だ」と言っている。
挨拶のたびに、10cm上を見ていた。
年齢差だけじゃなく、物理的にも「上」を向いている。
それが毎日だった。 ── 万引きGメンの現場にて
SECTION 02

モバイル販売の現場。
上から降りてくる人間は、全員デカかった。

もう一つの職場、家電量販店のモバイル販売。こっちのほうが階層がはっきりしていて、身長の差が露骨に見えた。

先にこの職場のヒエラルキーを整理しておく。

モバイル販売の権力構造

❶ 常務 ── たまに降りてくる「売らない人」
❷ クライアント ── 俺と顔合わせした、一番の偉いさん
❸ 店長 ── インカムで「巡回中です」と告げられる人
❹ トランシーバー男 ── ナンバー2。現場を仕切るサブ
❺ 俺たち ── 売り場に立っている24歳の派遣

❶から順に見ていく。

02-A

常務。スーツの質が、違う。

SCENE 売り場にいると、たまに見慣れない人間が視界の端を横切る。

スーツの生地が違う。歩き方が違う。売り場の人間じゃない。何も買わないし、何も売らない。ただ歩いている。なのに、すれ違うだけで空気の密度が変わる。

50代ぐらい。背は──178cm前後。

あとで隣の先輩がぼそっと言った。「あれ、常務。」

24歳の末端派遣が見上げた角度。あれがそのまま、この職場のヒエラルキーの角度だった。
178cm前後
常務TOP
50代。スーツ。178cm前後。たまにしか現れない。名前も知らない。でもすれ違った瞬間に「この人は上だ」と身体でわかった。スーツの仕立て、歩幅、そして身長。全部が「上」を言っている。
02-B

クライアント。立ち上がった瞬間、「デカい」と思った。

SCENE 派遣が始まる前の顔合わせ面談。部屋に入ると、一人の男が座っていた。

挨拶して、相手が立ち上がる。
その瞬間──「デカい。」

178cm。40代前半。

万引きGメンの現場で会う店長たちと同じぐらいの高さだ。まったく違う業種の、まったく違う会社の、一番偉い人が──同じ身長帯にいる。

この時点ではまだ「偶然だろ」と思っていた。
178cm
クライアント(一番の偉いさん)TOP
約178cm。40代前半。顔合わせの面談で、立ち上がった瞬間の第一印象が「デカい」だった。万引きGメンの店長たちと同じ数字帯。業種が違うのに、トップの身長が揃っている。
02-C

店長。インカムが鳴ると、空気が変わる。

SCENE 売り場に立っていると、インカムが鳴る。

「今、店長が巡回中です。」

全員の姿勢が少し変わる。声のトーンが半音上がる。

現れたのは白髪交じりの眼鏡の男。約172cm。40代後半。

日本人男性の平均とほぼ同じ身長。でもインカムで名前が飛ぶ人間は、同じ身長でも違う生き物に見える。

ただ──常務やクライアントと並べたとき、この人の身長は一段、低い。
172cm
店長(売り場巡回)MID
約172cm。40代後半。白髪交じり、眼鏡、知的な雰囲気。インカムで名前が飛ぶ存在感は身長では測れない。ただ、常務(178cm前後)やクライアント(178cm)と並べると、数字が一段下がる。
SECTION 03

ナンバー2。
こいつだけ、見上げなかった。

トップは背が高い。常務もクライアントも。店長も平均以上。

なら、ナンバー2はどうか。

SCENE 売り場を仕切っている男がいる。トランシーバーでずっと指示を飛ばしている。クライアントの下、副店長ポジション。

40代前半。クライアントとほぼ同い年。

だが身長は──170cm前半。

俺が169cm。こいつとすれ違うとき、目線がほぼ同じだった。

クライアントのときは見上げた。常務のときも見上げた。店長のときも、少し見上げた。

この男のときだけ、見上げなかった。

同じ40代前半。片方が178cm、もう片方が170cm前半。
立場はトップとナンバー2。身長差は約8cm。

能力とか実績とか関係なく──すれ違った瞬間の身体感覚として、この8cmがヒエラルキーの「段差」に感じた。
170cm前半
トランシーバー男(ナンバー2)NO.2
約170cm前半。40代前半。クライアントとほぼ同年代なのに、身長は約8cm低い。169cmの俺とほぼ目線が同じ。唯一、見上げなかった「上の人」。
クライアントのときは見上げた。
常務のときも見上げた。
店長のときも、少し見上げた。

トランシーバー男のときだけ、
見上げなかった。 ── その差がヒエラルキーの段差に見えた
SECTION 04

全員を、身長順に並べる。

2つの職場で出会った「上の人」を、全員並べてみる。

01
Gメン現場の店長たち
178cm〜
02
常務(モバイル)
178cm前後
03
クライアント(モバイル)
178cm
04
警備会社の社長
176cm
05
店長(モバイル巡回)
172cm
── ここに段差がある ──
06
トランシーバー男(No.2)
170cm前半
──
俺(24歳)
169cm

トップ層は全員172cm以上。常務・クライアント・Gメン現場の店長たちは178cm前後で横並び。警備会社の社長も176cm。

トランシーバー男だけが170cm前半で、ガクッと落ちる。そして俺(169cm)とほぼ同じ位置にいる。

172cmと170cm前半の間に、見えない段差がある。
この段差が、そのままヒエラルキーの切れ目に見える。

SECTION 05

2つの職場を横に並べる。
パターンが、同じだ。

万引きGメンの現場
  • 店長:178cm後半(40代・7人中5人が170後半以上)
  • 警備会社の社長:約176cm(40代後半)
  • 俺(24歳):169cm → 毎回見上げる
モバイル販売の現場
  • 常務:178cm前後(50代)
  • クライアント:約178cm(40代前半)
  • 店長:約172cm(40代後半)
  • トランシーバー男:170cm前半(40代前半)

万引き防止と携帯販売。業種としては何の接点もない。なのに「トップは178cm前後、ナンバー2は170cm前半」という構図がまったく同じだった。

しかもこれ、俺が意識的に探したんじゃない。毎日の挨拶とインカムの中で、24歳の身体に勝手に刷り込まれていた。

万引きGメンの店長と、モバイル販売のクライアント。
まったく違う職場のトップが、
同じ身長帯にいる。

探したんじゃない。勝手に、身体がそう感じていた。 ── 2つの現場を並べてみて
SECTION 06

ちなみに、研究も
同じことを言っていた。

ここまで全部、俺の体感だ。
ただ、「本当に気のせいなのか?」が気になって調べた。同じ傾向を指摘する研究が見つかった。

あくまで補足。この記事の主役は論文じゃなく、俺が見上げ続けた感覚のほうだ。

ASIDE 01 ── CEOの身長
Fortune 500のCEOの58%が183cm以上。一般米国男性は14.5%。約4倍。188cm以上だと一般3.9%に対しCEOは30%。
── Gladwell (2005) Blink, Ch.3 / APA Monitor
ASIDE 02 ── 身長と年収
身長1インチ(約2.54cm)高いごとに、年収が約789ドル(約12万円)上がる。30年で約166,000ドルの差。
── Judge & Cable (2004) J. of Applied Psychology, 89(3). 原文
ASIDE 03 ── 無意識の評価
背の高い人は初対面で「支配的」「有能」「リーダー向き」と無意識に評価される。男女共通。
── Blaker et al. (2013) Group Processes & Intergroup Relations, 16(1). 原文
ASIDE 04 ── 道を譲られる実験
狭い通路の自然観察(2,256人)。背の高い人が67%の確率で先に通過。短い人が道を譲った。
── Stulp et al. (2015) PLOS ONE, 10(2). 原文(無料)
ASIDE 05 ── 日本の身長プレミアム
正規雇用男性に「高身長プレミアム」と「低身長ペナルティ」が確認された。+1cmで時給+約0.8%。
── 田中 (2010) 慶應義塾大学 DP2009-010. PDF

どの研究も「背が高い=有能」とは言っていない。言っているのは「背が高い人がリーダーに見えやすい」という無意識のバイアスだ。俺の体感と、研究の結論が同じ方向を向いていた。

SECTION 07

もちろん、例外はある。

ジャック・ウェルチ(元GE CEO)は約170cm。ザッカーバーグも約170cm。背が低くてもトップに立った人間はいくらでもいる。

俺のサンプルは2つの職場、合計10人にも満たない。万引きGメンは挨拶の場面だけ。クライアントは顔合わせで1回。常務はすれ違っただけ。統計的に有意なんて口が裂けても言えない。

24歳が2つの職場で見たものなんて、世の中のサンプルとしちゃ小さすぎる。わかっている。わかった上で書いている。

この記事は「背が高い人が有能だ」と言いたいわけじゃない。

24歳・169cmの俺が2つの現場で見た光景を、そのまま書いた。調べたら同じ傾向を示す研究が5本あった。それだけの話だ。
SECTION 08

169cmの、24歳が思うこと。

万引きGメンの現場で店長に挨拶するとき、見上げる。
警備会社の社長と話すとき、見上げる。
モバイル販売のクライアントと顔合わせしたとき、見上げた。
常務とすれ違ったとき、見上げた。

トランシーバー男のときだけ、見上げなかった。

「上の人と話す=物理的に上を向く」が毎日繰り返されると、それが無意識のヒエラルキーになっていく。178cmだから店長になれたわけじゃない。そんなことはわかっている。でも身体は理屈より先に感じる。

SCENE 仕事終わり。店を出て駅に向かう。

ふと、今日会った「上の人」を全員思い出してみる。
店長。社長。クライアント。常務。

全員、俺より背が高かった。

じゃあトランシーバー男は?
──あいつだけ、目線が同じだった。

24歳がこんなことを帰り道に考えていること自体、どうかしている気もする。でも一度気づいてしまうと、もう気づかなかったことにはできない。
物理的に見上げることと、
心理的に見上げること。
それは、たぶん地続きにある。

一度気づいてしまうと、
もう気づかなかったことにはできない。 ── 24歳・169cmの体感
REFERENCES
  1. Gladwell, M. (2005). Blink. Little, Brown and Company. Ch.3.
  2. Judge, T. A. & Cable, D. M. (2004). J. of Applied Psychology, 89(3), 428–441. APA PsycNet
  3. Blaker, N. M. et al. (2013). Group Processes & Intergroup Relations, 16(1), 17–27. SAGE
  4. Stulp, G. et al. (2015). PLOS ONE, 10(2), e0117860. PLOS ONE
  5. 田中賢久 (2010). 慶應義塾大学 DP2009-010. PDF
  6. 厚生労働省 (2020). 令和元年 国民健康・栄養調査報告. PDF
  7. APA (2004). “Standing tall pays off, study finds.” APA Monitor
CONCLUSION

万引きGメンの現場。挨拶した店長は7人中5人が170cm後半以上、2人が180cm超。警備会社の社長は約176cm。

モバイル販売の現場。常務は178cm前後。クライアントは約178cm。店長は約172cm。ナンバー2のトランシーバー男は170cm前半。

トップとナンバー2の間に、約8cmの段差がある。

2つの職場、10人にも満たない観測。24歳が見た景色。証明にはならない。

でも、「背の高い人が上に立つ」は、気のせいじゃなかった。

この記事の本体は論文じゃない。
24歳・169cmの俺が、2つの現場で見上げ続けた、あの感覚だ。

「背の高い人が上に立つ」は気のせいじゃなかった。
── 2つの現場で体感した身長とヒエラルキーの話。
EP.15

身長とヒエラルキーのイメージ – 5人のシルエットが身長順に並ぶ
EP.15 ── 仕事遍歴シリーズ

「上の人」は、
なぜ全員デカかった?

169cmの24歳が2つの現場で見上げ続けた記録。

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