労働記録 EP.11 仕事遍歴シリーズ
14時が、一番絶望する。
家電量販店のモバイル販売員、派遣社員の1日。
開店10分前の朝礼から、22時の締め残業まで。
求人サイトには載っていない時間の流れを、全部書く。
出勤、業務端末、そして汚さ
──給料に直結する打刻と、触りたくない端末の話。
出勤したらまず業務端末で出勤記録を打つ。
これが給料に直結する。打ち忘れたら、その日の勤務がなかったことになりかねない。
だからこれだけは絶対に忘れない。
問題は、その業務端末が汚いということだ。
契約に使うパソコンも、お客様の個人情報を扱う指紋認証つきのパソコンも、
基本的に汚い。
画面には指紋がべったりついている。
キーボードには粉みたいなものが挟まっている。
誰かの食べかすなのか、何なのか分からない。
充電コードの根元には黒いねちゃついたものがこびりついている。
たぶん白い被覆が摩擦で削れて、それが汚れと混ざってねちゃっとした塊になっている。
触りたくない。
でも端末の充電は業務だから触らないわけにはいかない。
ブランドイメージと現場の落差がすごい。
お客様から見える側はきれいだ。
でも裏側は、まあそういうことだ。
求人サイトの写真に映る清潔なカウンターと、実際に毎日触る端末の汚さ。
このギャップは、働いた人間にしか分からない。
早番の開店準備と、蚊帳の外の朝礼
──上の人たちは謎の紙を見て何か話し合っている。自分はその輪の外にいる。
早番の開店準備が始まる。
在庫棚の鍵を取りに行く。什器の電源をつける。パソコンの電源をつける。
シフトを確認する。今日は誰が働くのか。
それほど作業量は多くない。
開店10分前に行う。
上の人たちは、なんかわけの分からない紙を見て話し合っている。
売上の数字なのか、本部からの指示なのか、何なのかは分からない。
なんせ俺は蚊帳の外だ。
何をやっているかはあんまり分からないし、聞ける雰囲気でもない。
そして開店。
家電量販店の店員とともに挨拶をする。
しっかりと立って。ちゃんと立たなければならない。
「頭をちゃんと45度下げるように。」
あの普段「いらっしゃいませ」を言わない上の立場の人たちも、
この朝礼だけはちゃんと挨拶する。
それがだいたい5分、10分ぐらい続く。
やめるタイミングは、家電量販店の店員がそれぞれ勝手に「もういいだろう」というタイミングでやめたら、キャリアのスタッフもそれぞれ定位置につく。
明確な合図はない。空気で終わる。
そして俺はいつもの定位置、モバイルアクセサリーコーナーに行く。
その挨拶をしている時点でもう少し憂鬱なんだ。
これから、あまりにも時間がたつのが遅い時間が流れるのだから。
これから何回時計を見るのか分からない。
11時〜14時、時計を見るたびに絶望する
──モバイル販売員の午前中は、実はそんなに忙しくない。だからきつい。
俺のことは置いておいて。
俺の職場の一般的なモバイル販売員が何をしているかというと、パソコンをいじっている。
こっちから見ても何をしているかはよく分からない。
何を売らないといけないのか、何が余っているのか、○○さんのお客さんが何時に来店するか、というのを確認しているんだと思う。
このときはあんまりインカムも飛んでこない。
そして11時ごろ。徐々にお客さんが増えてくる。
といっても、家電量販店は他の店舗に比べて客の入りが少ないように思う。
まだ少ない。
ようやくここらで2、3人に声を掛けられて対応する。
その間、俺は「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」を連発する。
カウンターや商談席にお客様とともにモバイル販売員がつき、営業トークが始まる。
このプランがいいのではないか、この機種がいいのではないか。
結構個性が出る。でも繰り返しの作業だから、みなそれなりに慣れ切った様子だ。
それが終わって一区切りがつけば、休憩45分。
カップ麺を食べる。イヤホンを挿して動画を見ながら。
タバコを吸う人はタバコを吸い、トイレに行き、またトランシーバーの片耳イヤホンをつけて売り場に戻る。
戻ったら今度は遅番の人がいて、フル体制のメンバーに変わる。
それでも俺がやること、他の人がやることは変わらない。
客を捕まえてくるかどうかによって作業量が変わるだけ。
まだ全然時間がたっていない。
昼休憩は終わった。
でも閉店まではまだ何時間もある。
進んでいるようで進んでいない。
いちばん長い時間帯が、ここから始まる。
18時〜19時、ようやく忙しくなる
──会社帰りの人が一斉に来る。この1時間が一番大変。
18時を過ぎると空気が変わる。
会社帰りの客が集中する。
この時間帯が、1日で一番人が多くて一番大変だ。
スーツ姿のサラリーマン、仕事終わりの若い社会人。
プランの見直し、機種変更、家族の分の相談。
一気に商談ブースが埋まる。声出しの回数も増える。
フロア全体がようやく「仕事をしている」空気になる。
14時の絶望がようやく溶けていくのは、このピークのおかげだ。
そしてそれが過ぎると、19時〜20時はまた少し暇になる。
ピークの余韻が残っているうちに、緩やかに店内が静まっていく。
20時〜22時、締め作業と残業の果て
──汚いほうきで汚いカウンターを掃いて、余計汚くなる。
20時を過ぎると、もうほとんど人がいない。
閉店に向けて締め作業が始まる。
最後のほうき掃除が象徴的だ。
汚いほうきで、汚いカウンターの中のほこりを掃く。
もともとついていたほこりが落ちて、余計汚くなる。
きれいにするためにやっているのに、結果的に汚れが移動しただけ。
でもやらないわけにはいかない。
そして、この締め作業が延長されることがある。
データ処理が遅い人がいる。
そういう人は平気で22時近くまで残業している。
そしてその時間に、プラスメッセージで全員に通知が飛んでくる。
その送信時刻が、21時48分。
リアルタイムで届く。
まだ店にいるのか、と思う。
こちらはもう家にいる。
なのに向こうはまだあの汚いカウンターの中にいる。
21時48分のプラスメッセージ。リアルタイムで届くからこそ、
まだあの場所に人がいるという事実が、画面越しに重い。
半年でアクセサリー、1年でカウンター、3年で──
──この売り場の時間軸と、派遣社員のキャリアの話。
14時になると、この店に入ってもう半年以上たつ人が、モバイルアクセサリーコーナーに来る。
俺と同じようにポップを持ち、接客をしながら歩き回る。
半年以上の人でも、ここに来ないといけないのか。
俺の肌感覚では、1年以上の人はもうモバイルアクセサリーコーナーに来なくなる。
カウンターで接客をするのがメインになってくる。
てかそればかりしている。
そのさらに上——事務作業、パソコンでのデータ管理、指示出し、注意事項をインカムで飛ばす側。
接客をしなくなる一段階上に上がるのにどれぐらいかかるのかは分からなかった。
でも3年ぐらいはかかるのではないかと思う。
でもこの業界、3年も同じところにいたらもうベテランだと思う。
働いている人の経歴を聞くと、アパレルから移ってくる人が多い。
変わったところだと、ゲームのバグを修正する仕事からモバイル販売に来た人もいた。
派遣法の関係もあるのだろう。
3年たったら何か措置を取らなければならない。でも3年たってキャリアが正社員にしてくれるかは、また別の話だ。
土日は、この全部の忙しいバージョン
──平日の1日をそのまま1.5倍速にして、密度を上げた地獄。
ここまで書いたのは、平日の話だ。
開店準備は同じ。朝礼も同じ。
でも11時の時点でもう客が多い。
14時の絶望は、客が途切れないぶん時間は早く過ぎるが、体力の消耗は比較にならない。
18時のピークは平日の倍。
家族連れが増え、商談ブースは常に埋まり、声出しの回数も跳ね上がる。
締め作業は書類も在庫の動きも多いぶん、さらに時間がかかる。
平日は「時間が進まないきつさ」。
土日は「時間が足りないきつさ」。
どちらに転んでも、きつい。
平日と土日で、きつさの種類が入れ替わる。
退屈で削られるか、忙殺で削られるか。選べない。シフトが決める。
1日の全体像
──モバイル販売員の平日タイムライン
1日が始まる。
上の人は謎の紙を見て話し合い。
自分は蚊帳の外。
終わるタイミングは空気で決まる。
定位置へ。
販売員はパソコンを確認。インカムもあまり飛ばない。
静かな時間。
休憩45分でカップ麺。
14時、絶望。
やることは変わらない。
時計を見るたびにいらつく。
会社帰りの客が集中。
1日で一番忙しく、一番早く過ぎる。
ピークの余韻が残る。
締め作業開始。
売上、書類、在庫、SIM、充電、什器、ほうき。
21時48分、プラスメッセージがリアルタイムで届く。
この記事を貫く3本の串
14時が、一番絶望する。
忙しいからきついのではなく、時間が進まないからきつい。
これがこの仕事の本質だ。
業務端末もカウンターもほうきも汚い。
裏側の汚さは、求人サイトの写真には映らない。
アクセサリーコーナーからカウンター、管理側へ。
その階段を登るのに推定3年。でも派遣法の3年ルールが先に来る。
この1日がずっと繰り返される。
明日も、明後日も。土日はさらに忙しいバージョンで。
仕事はこのブログの燃料だ。
それくらいの気持ちでないとやってられないからさ。
こういうがちリアルな体験談を、これからもここに上げていく。
力入れるよ。