「人生は運ゲーだ」と
気づいた高2の夏から、
6年間ずっと動けなかった。
新卒派遣退職。業務委託退職。無職。
収益ゼロの個人ブログを、布団の中で書いている。
新卒派遣退職。
業務委託退職。
無職。
2026年。
俺は24歳で、無職だ。
モバイル販売員の派遣を
2ヶ月で辞めた。
万引きGメンの業務委託を辞めたら、
5万円近くただ働きにされた。
LP制作で稼ごうとした。
2日考えて、やめた。
クラウドワークスのポートフォリオを見たら、
息が苦しくなったからだ。
持っているものを数えたら、
WindowsのノートPCと、
数万円の貯金と、
誰にも読まれないブログだけだった。
それを持って、大分に行った。
自由を選んだつもりだった。
でも正直に言えば、
もう他に行ける場所がなかっただけだ。
布団の中でPCを開いて、
ファンがブーンと鳴る音を聞きながら、
この文章を打っている。
月収は0円。
アドセンスは審査中。
いいねは全記事合わせてゼロ。
これが「親ガチャ」に
囚われた6年間の、
現在地だ。
なぜこうなったかを、
最初から全部書く。
2018年、高2の昼休み。
「国本は親ガチャ当たりだから」
教室で、オタクグループが喋っていた。
たぶん昼休みだった。
俺はそのグループにも入れない側で、
ひとりで弁当を食べていた。
偏差値47の公立高校。
友達は──いない、と言っていい。
聞こえてきたのは、
クラスで一番顔がいい男子の話題だった。
そいつが言った。
笑いながら。
たぶん、深い意味はなかった。
でも俺には刺さった。
「親ガチャ」。
初めて聞く言葉だった。
ソシャゲのガチャと同じだと、
すぐに理解した。
つまり──顔も、頭も、性格も、
親から引いたカードで
決まっている、ということだ。
国本は背が高くて、
顔が整っていて、
話が面白かった。
女子が自然に寄ってきた。
俺はその対角線上にいた。
教室で存在感ゼロの、
弁当を一人で食うやつだった。
家に帰って、
5chのまとめサイトを開いた。
「親ガチャ」で検索した。
スレッドは山ほど出てきた。
「容姿は遺伝」
「知能も遺伝」
「コミュ力も遺伝」
「結局、全部親のスペック次第」
なんとなく知っていたことを、
初めて「言語」で受け取った瞬間だった。
あの昼休みの一言が、
6年間の呪いの起点になるなんて、
そのときの俺は知らない。
偏差値47から10上げて、
燃え尽きた。
高3になって、受験勉強を始めた。
5chのまとめサイトばっかり見ていた生活を、
少しだけ変えた。
理由は単純で、
「このまま偏差値47の現実に
沈んだまま終わりたくなかった」からだ。
CLASH ROYALEにハマっていた時間を、
参考書に置き換えた。
毎日やった。
たぶん人生で一番、
何かを「続けた」期間だった。
偏差値は10以上、上がった。
第一志望は落ちた。
第二志望に受かった。
それでも嬉しかった。
「やればできるじゃん」
そう思った。
一瞬だけ。
でも、それが
燃え尽きの起点だった。
俺は持っていたものを
全部つかい切った。
合格した瞬間、
タンクの中が空になった。
──次に何をすればいいのか、
まったく分からなくなった。
大学に受かった18歳の春、
俺の中では
もう何かが終わっていた。
2020年。コロナと
落合陽一とProgate。
大学1年、2020年4月。
コロナが来た。
入学式はなかった。
サークルの新歓もなかった。
キャンパスに行ったのは
数えるほどだった。
家にいた。
ずっと。
画面だけが世界だった。
そこで出会ったのが、
「意識高い系」の世界だった。
落合陽一。NewsPicks。
箕輪厚介。ホリエモン。
全員が「行動しろ」と言っていた。
行動。行動。行動。
その言葉が画面から溢れていた。
あの頃の俺は、
それが正しいと思っていた。
だから行動した。
プログラミングを始めた。
Progateに課金した。
1日3時間くらい、やった。
HTMLを打った。CSSをいじった。
正確にはそれくらいしか
進めなかった。
最初の1週間は
「自分にもできるかも」と思った。
2週間目で手が止まり始めた。
3週間目で画面を見るのが
苦痛になった。
ぶちっと切れた。
糸がぷつんと切れるように、
「もういい」と思った。
「行動しろ」と言われて行動した。
でも何をどう行動すれば
金になるのか分からなかった。
分からないまま走って、
分からないまま止まった。
Progateのアイコンが
スマホのホーム画面に残っていた。
消すのに2日かかった。
消した瞬間、
自分が何も持っていないことを
認めた気がした。
狭いマンションで、
母がテレビを見て
笑っていた。
Progateを辞めた後、
しばらく何もしなかった。
狭いマンション。
学校給食の調理スタッフの母と、
会社員の父。
普通の──たぶん、普通の家庭だった。
ある日、
リビングで母がテレビを見て
笑っていた。
バラエティの笑い声が
壁を通して聞こえてきた。
何も特別じゃない光景。
どこの家庭にもある夜。
でも、あのとき
俺の中で何かがひっくり返った。
そう思った。
言葉にすると最悪だ。
分かっている。
でも──
落合陽一は世界を変えようとしていて、
箕輪は本を何十万部も売っていて、
画面の中の人間は全員「行動」していた。
なのにうちの親は、
テレビを見て笑っていた。
成功者の親は
子どもに投資をする。
本を読ませ、塾に行かせ、
海外に連れて行く。
少なくとも、画面の中では
そういう話ばかりだった。
俺の親は、
そういう親じゃなかった。
悪い親じゃない。
飯は出てきたし、
殴られたこともない。
でも「導いてくれる親」でもなかった。
そこから俺は、
検索を始めた。
「親ガチャ 遺伝」
「IQ 遺伝率」
「才能 遺伝 努力」
「人生 運ゲー」
検索履歴が、
そのまま
俺の精神状態だった。
ZOOMで
マリーゴールドを歌える女と、
自己責任の壁。
大学にはオンライン授業があって、
たまにZOOMで
自己紹介をさせられた。
ある女子が、
趣味は歌うことだと言って、
その場であいみょんの
マリーゴールドを歌い出した。
うまかった。
声が澄んでいた。
ZOOMの画質は粗いのに、
その声だけがやけに鮮明だった。
チャット欄に
「すごーい!」「上手!」が並んだ。
俺は何も打てなかった。
俺は歌えない。
あいつは人前で笑える。
俺はZOOMのカメラすら
オフにしていた。
この差はどこから来たのか。
大学に入ると、
「努力厨」が多かった。
「努力すれば変わる」
「やるかやらないかだけ」
「環境のせいにするな」
教授もそう言った。
先輩もそう言った。
就活の面接官も、たぶん
同じことを言う。
社会に出たら、
もっとひどかった。
派遣で携帯販売員をやったとき、
求められたのは
100%の自己責任だった。
売れないのはお前のせい。
話しかけられないのはお前のせい。
客がつかないのはお前のせい。
「親ガチャ」なんて言葉は、
職場では
1ミリも通用しなかった。
なぜ世の中の社会人が
「親ガチャ」という言葉に
拒絶反応を起こすのか。
あの言葉は、
自己責任で生きてきた人間にとって、
自分の人生を否定されるのと同じだからだ。
だから人格攻撃に走る。
「甘えるな」「言い訳するな」と。
でも──考えが浅い。
考えが、浅いんだよ。
コミュ力、絵、動画編集。
全部に「才能」がいた。
「コミュ力は鍛えられる」
そう言う人間がいる。
じゃあ聞いていいか。
その「鍛える」の土台に、
何が必要か
考えたことはあるか。
人に話しかけるには、
まず不安にならない脳がいる。
不安にならない脳には、
セロトニンの分泌量が関わる。
それは──遺伝だ。
コンプレックスがあると卑屈になる。
卑屈になると人に近づけない。
容姿のコンプレックスは
親から受け継いだ骨格と顔だ。
人に話しかけようとするたびに、
頭の中で警報がガンガン鳴る。
心拍が上がる。
喉が閉まる。
言葉が出ない。
それは殴られたときと
同じ痛みだ。
脳にとっては、
精神的な攻撃と物理的な暴力は
同じ領域で処理される。
でも「努力厨」は言う。
「自分からアタックしろ」
「聞き出して友達になれ」
「人脈を作れ」
殴られる覚悟で行けと言っているのと同じだ。
それに気づいていない。
絵も同じだった。
オタク界隈でよく聞く言葉がある。
「絵は努力」。
冗談じゃない。
絵こそ才能だ。
空間認知能力。
色彩感覚。
手先の器用さ。
全部に遺伝的な
ベースがある。
俺の美術の成績は、
5段階で2だった。
冗談じゃなくて、2。
それが遺伝じゃなくて何なんだ。
動画編集ができるやつを見て思った。
「こいつがこんな編集できるのは、
センスがあるからだ」
センスの正体は、
リズム感と視覚的構成力と、
ソフトウェアへの適応速度だ。
音楽の遺伝率は92%。
92%だぞ。
結局のところ、
努力で埋められると言われている
あらゆるスキルの入口に、
「生まれつきの難易度設定」がある。
このループを6年間、回し続けた。
困難ばっかりなんだよ。
入口の段階で、
すでに困難しかないんだよ。
6年間の年表。
やっては壊れたリスト。
「親ガチャ」に出会ってから6年間、
俺がやったことと、
壊れたことをまとめる。
| 時期 | やったこと / 起きたこと |
|---|---|
| 2018 夏 | 高2の昼休み。「親ガチャ」に出会う。5chに没頭。 |
| 2019 | 受験勉強。偏差値47→57以上。第二志望合格。燃え尽きる。 |
| 2020 春 | 大学入学。コロナでロックダウン。落合陽一・NewsPicksに傾倒。 |
| 2020 夏 | Progate課金。1日3時間×約1ヶ月。解約。挫折。 |
| 2020 秋 | 狭いマンションで母を見て「親ガチャ」を深掘りし始める。 |
| 2021 | 「親ガチャ」が流行語大賞トップ10に選出。知恵袋で反論活動。 |
| 2022 | 「無理ゲー社会」「実力も運のうち」を読む。無気力が固定化。 |
| 2023-2025 | 就活。失敗。無気力のまま、結局一留して大学を卒業。 |
| 2026 1-2月 | モバイル販売員の派遣。2ヶ月で退職。 |
| 2026 2-3月 | 万引きGメン(業務委託)。退職。5万円近くただ働き。 |
| 2026 3月 | LP制作を検討。2日で断念。 |
| 2026 4月 | 無職。大分移住。LUCID LOG執筆中。月収¥0。 |
数字にすると、
こうなる。
6年間で、
何ひとつ形になっていない。
でも振り返ると、
毎年なにかをやろうとはしていた。
毎年、壊れていただけだ。
まだ、呪いの中にいる。
2022年頃、「親ガチャ」は
流行語大賞にノミネートされ、
ネットの外にまで広がった。
最初は嬉しかった。
「やっと世間が気づいたか」と思った。
でも広がったことで、
「言い訳ワード」として
消費されるようになった。
テレビのコメンテーターが
「甘えだ」と言った。
知恵袋には
「親ガチャなんて言ってるやつは
努力してないだけ」と書かれた。
俺はその知恵袋で、
一人で反論を書いていた。
誰にも読まれないベストアンサーを、
何件も書いた。
それが
「親ガチャの呪い」の本質だ。
最初は、救いだった。
「俺が悪いんじゃない、
環境が悪かったんだ」と思えた。
そう思えた瞬間、少し楽になった。
でも「楽になった」先で、
動けなくなった。
遺伝だと知ったら、
もう頑張る理由がなくなった。
だって
結果は最初から決まっているんだから。
最初は鎮痛剤だった。
痛みを消してくれた。
でも鎮痛剤を飲み続けたら、
痛みと一緒に、
動く理由まで消えた。
6年間、俺は
その鎮痛剤を飲み続けた。
いま、24歳。
無職。
大分のアパートの布団の中で、
ファンがうるさいPCを開いて
これを書いている。
月収は0円。
スキルと呼べるものはない。
友達も、人脈も、ない。
でも──
書いている。
これが何になるのか分からない。
読まれるかも分からない。
金になるかなんて、もっと分からない。
ただ、6年間で
初めて気づいたことがある。
「遺伝で決まる」と知ったことで
動けなくなったなら、
「遺伝で決まる」の外側に
出る方法を探すしかない。
その話は、次に書く。
まだ呪いの中にいる。
でも、指は動いている。
| テーマ | 「親ガチャ」に囚われた6年間の全記録 |
| 対象期間 | 2018(高2)── 2026(24歳・無職) |
| 初遭遇 | 2018年夏 高2の昼休み「国本は親ガチャ当たりだから」 |
| 転機 ① | 2019年 偏差値10+UP → 第二志望合格 → 燃え尽き |
| 転機 ② | 2020年 コロナ → 落合陽一 → Progate挫折 |
| 転機 ③ | 2021年 「親ガチャ」流行語大賞トップ10 |
| 転機 ④ | 2026年 派遣退職 → Gメン退職 → 大分移住 |
| 遺伝率 |
IQ 66%、数学 87%、音楽 92%、運動 66-80%、収入 59%、性格 約50% 出典:AERA dot. 2019(安藤寿康教授インタビュー)/ 現代ビジネス 2020 / Newsweek Japan 2017 / 『日本人の9割が知らない遺伝の真実』SB新書 2016 ※遺伝率=「集団の個人差のうち遺伝で説明できる割合」であり、個人の能力が遺伝で何%決まるという意味ではない。 |
| 参考文献 |
安藤寿康『日本人の9割が知らない遺伝の真実』SB新書 安藤寿康『生まれが9割の世界をどう生きるか』SB新書 マイケル・サンデル『実力も運のうち』早川書房 橘玲『無理ゲー社会』小学館新書 東洋経済「努力すれば成功できるは本当か」2026 |
| 現在 | 無職 / 月収 ¥0 / 大分 / LUCID LOG 執筆中 |
| 次回予告 | 「親ガチャの呪いから、抜け出しかけている話」 |