携帯販売員の派遣を、2ヶ月で辞めた。金曜日の13時20分、くもり。

携帯販売員の派遣を2ヶ月で辞めた日の話。金曜13時20分、「更新しません」と打った。|LUCID LOG
労働記録 EP.20 ── モバイル販売員篇 ① / 3

家電量販店のモバイル販売コーナー。
教育ゼロ。ティッシュ配りだけの2ヶ月。
派遣会社からの更新確認メールに、
「更新しません」と返信した日の記録。

携帯販売員の派遣を2ヶ月で辞めた日の話。
金曜13時20分、「更新しません」と打った。

2ヶ月 総勤務期間
3ヶ月契約の途中
13:20 「更新しません」
と打った時刻
金曜 くもり
2月20日

2026.03.22 読了 18 min 携帯販売員 / 派遣 / 退職 / 体験談 / 家電量販店

SECTION 01

この記事の前提。
EP.13の「その後」を書く。

EP.13で、家電量販店の携帯販売員として派遣された現場のことを書いた。教わったこと。教わらなかったこと。2ヶ月間ティッシュを配り続けた話。別キャリアの新人が3日で商談席にいた話。

あの記事は「現場の構造」を書いた。

この記事は、あの現場を辞めると決めた日のことを書く。

EP.20からEP.22まで、全3本。
EP.20は辞めると決めた日。
EP.21は決めてから最終出勤日までの軽いやり取り。
EP.22は最終面談の記録。

ちなみに、この時期すでに万引きGメン(EP.17〜19)の仕事を副業として並行していた。月に2回ほど。モバイル販売員が本業で、Gメンが副業。その状態で「本業を辞める」と決めた。

SECTION 02

最初に「辞めたい」と思ったのは、
わりと早かった。

入社して1〜2週間だったと思う。

まだ1ヶ月も経っていない段階で、もうぼんやり思っていた。「これ、続けても意味ないんじゃないか」と。

EP.13に書いた通り、教育がなかった。立っているか、ティッシュを配っているか。それだけだった。商品知識もプラン内容も接客も、誰も教えてくれない。自分から聞き出さなきゃ、誰も寄ってこない。

でも、最初は「まだ早い」と思っていた。
3ヶ月契約だ。少なくとも3ヶ月はやろう。
そう思って耐えていた。

その「耐えていた」が限界に来たのが、2ヶ月目だった。

SECTION 03

限界だと感じた、3つの出来事。

1

「まだその段階だね」と2回言われた

1ヶ月目の面談で「どこまで教えてもらったの?」と聞かれた。「立っているかティッシュを配っているかだけです」と答えた。返ってきた言葉は「まだその段階だね」。2ヶ月目の面談でも同じ質問をされて、同じ答えを返した。EP.13に書いた通りだ。そのとき俺は言い放った。「そろそろやめることも検討しています」と。

2

「今そんなの教えてもしょうがないでしょ」

誰かが俺に何かを教えようとしてくれた。それを上の立場の人が止めた。「今そんなの教えてもしょうがないでしょ」。──なら、いつ教えてくれるんですか。でもその人は結構怖い人だったから、言い返す勇気はなかった。

3

別キャリアの新人は、3日で商談席にいた

俺の後から入った別キャリアの新人が、開始3日で先輩の営業トークを聞かせてもらっていた。俺は2ヶ月経ってもティッシュ配り。この差を見たとき、「環境が違う」と頭では分かっていても、心では納得できなかった

自分(2ヶ月目)

ティッシュ配り

別キャリア新人(3日目)

商談席で研修

この3つが重なったとき、
「辞めよう」が「辞める」に変わった。

SECTION 04

金曜日。13時20分。くもり。
「更新しません」と打った。

2月20日。金曜日。

勤務中だった。売り場に立っていた。いつもと同じように。

13時20分。派遣会社の営業担当からメールが来た。
契約更新の意思確認だ。

「更新されますか?」

俺はその場で返信した。

「更新しません。」

── 2月20日 13:20 派遣会社への返信メール

打つのに時間はかからなかった。

迷わなかった、と言えば嘘になる。でも、迷う時間は2ヶ月間ずっとあった。メールを開いてから返信するまでの時間は、ほんの数分だったと思う。決断は一瞬だった。でもそこに至るまでの蓄積は、2ヶ月分あった。

外はくもりだった。
売り場の照明は蛍光灯で、天気なんて関係ないはずなのに、
なぜかくもりだったことだけ覚えている。

本来の契約は3月末までだった。
でも「更新しません」と返信したことで、2月末で契約終了になった。
そこから2月末まで、残りのシフトを消化して辞めることになる。

入社
約2ヶ月前
2/20(金)
「更新しません」
13:20 返信
〜2月末
残りシフト消化
本来の契約
3月末まで
1ヶ月前倒し
SECTION 05

「更新しません」と送った直後の、
売り場の景色。

メールを送ったあと、スマホをポケットにしまった。

目の前には売り場がある。さっきと同じ売り場。同じ蛍光灯。同じティッシュの箱。何も変わっていない。

でも、自分だけが変わった

さっきまで「ここにいなきゃいけない」と思っていた場所が、「あと数日で離れる場所」になった。同じ蛍光灯の下に立っているのに、空気が少しだけ軽くなった気がした

周囲のスタッフは何も気づいていない。
当たり前だ。俺がスマホで返信を打ったことなんて、誰も見ていない。

いつも通り14時が来た。

EP.12で書いた「14時の絶望」。あの、午後に入ってから退勤までが永遠に感じる時間帯。

でもこの日の14時は、少しだけ違った。

14時の絶望は、いつもと同じようにやってきた。
でもその絶望の底に、「もうすぐ終わる」という事実が敷かれていた。

KEY INSIGHT

絶望の質が変わった。終わりのない絶望から、終わりのある絶望に。それだけで、同じ14時でも耐えられた。

SECTION 06

「きついですか?」と聞いてきた、
同い年の女性従業員。

辞めると決めた日か、その前後だったと思う。正確な日付は覚えていない。

同い年くらいの女性従業員に話しかけられた。

女性
きついですか?
自分
はい。きついです。
女性
きついですよね──。

俺は結構正直に答えるほうだ。

「きついですか?」と聞かれて、「いや、大丈夫です」とは言えなかった。大丈夫じゃないから。だから正直に「はい。きついです」と言った。

彼女は「きついですよね──」と返した。

それだけだった。
解決策を提示してくれたわけでもない。
慰めてくれたわけでもない。
ただ「きついですよね」と言っただけだ。

でもあの一言は、2ヶ月間で一番まともな会話だった気がする

あの売り場では、誰も「きつい」とは言わなかった。全員が黙って立っていた。きついことが前提の空間で、きついと口に出すこと自体が珍しかった。

あの売り場の空気

きついことが前提。
だから誰も「きつい」とは言わない。
言ったのは、あの女性だけだった。

SECTION 07

あっさり終わるかと思った。
でも「面談をしたい」と言われた。

「更新しません」と返信したあと、正直あっさり終わると思っていた。

派遣だ。更新しなければ契約満了で終わる。それだけの話だ。

でも、そうはならなかった。

派遣会社の営業担当から「面談をしたい」と言われた。営業担当を含めた3名での面談。

ここでネタ晴らしをすると、実はこのあと面談は2回あった

1回目

営業担当を含む
3名での面談
EP.21で詳述

最終

元アパレル店長の
人事担当が登場
EP.22で詳述

2回目の最終面談には、強烈なキャラクターが出てくる。元アパレルの店長から人事担当になった人間で、いわゆる「シゴデキ」タイプ。俺がこの仕事への不満を話したら、「あなたにも至らないところがあったよね」と返された。

──でも、それはEP.22に書く。

今回は、辞めると決めた日そのものの話を最後まで書く。

SECTION 08

辞める理由を、正直に整理する。

辞めると決めたあと、自分の中で理由を整理した。面談に備えて、というよりは、自分自身に説明するために。

1

成長できない

2ヶ月間、教わったのはフロアマップとスマホケースの案内と業務端末のパスワードだけ。商品知識もプランも接客も教わっていない。このまま3ヶ月目に入っても、同じことの繰り返しだと確信した。

2

時間の経過が遅すぎる

14時の絶望。EP.12で書いた通り、午後に入ってからの時間が永遠に感じる。やることがないのに立ち続けるのは、忙しい仕事よりはるかにきつい。

3

もっと有意義に時間を使いたい

2ヶ月目の面談で正直に言った言葉がそのまま理由になった。「正直今の仕事をしていても成長しない。もっと有意義に時間を使いたい。」

4

副業(万引きGメン)がすでにあった

Gメンの仕事を月に2回ほど入れていた。孤独な仕事だけど、少なくとも「やること」がある。本業を辞めてもゼロにはならないという安心感はあった。

給料は理由に入っていたかというと、大きくはない。時給は悪くなかった。問題は金じゃなくて、「この時間に中身がない」ということだった。

「辞めたかった」のか、「逃げたかった」のか。
正直に言えば、両方だ。

でも「逃げ」だとしても、逃げた先で万引きGメンの仕事をしていたし、2月末の最終出勤日まできっちりシフトを消化した。逃げることと無責任であることはイコールじゃない。少なくとも、自分ではそう思っている。

SECTION 09

帰り道。イヤホンから流れていた音楽。

退勤した。

帰り道、いつも通りイヤホンをしていた。

何を聴いていたか。藤井風か、エミネムか。どっちかだった。あの頃はその2択がずっとローテーションしていた。

日本語の柔らかい歌声と、英語の硬い韻。正反対の音楽を交互に聴いていた。たぶん、どっちか片方だけだとバランスが崩れる気がしていたんだと思う。

帰り道の気持ちは──

軽かった。

罪悪感はなかったと思う。後悔もない。ただ「やっと言えた」という感覚があった。2ヶ月間ずっと頭の中にあった「辞めたい」を、やっとメールという形にして外に出せた。

くもり空の下を歩いて帰った。蛍光灯の下よりは、くもりのほうがずっとましだった。

SECTION 10

親に言ったか。おばあちゃんには。

親には言った。「辞めることにした」と。

親の反応は覚えていない。たぶんそこまで驚かなかったと思う。EP.17で万引きGメンに応募したときのほうがよっぽど心配されていた。モバイル販売員を辞めること自体は、親にとっても「そうだろうな」くらいだったのかもしれない。

おばあちゃんには──たぶんすぐには言っていない。おばあちゃんに「仕事辞めた」と言うのは、いつもちょっと気が重い。心配される量が親の3倍くらいある

でもいずれは言った。EP.19でもそうだったように、おばあちゃんには結局なんでも報告してしまう。

SECTION 11

万引きGメンとの並行。
辞めても「ゼロ」にはならない安心。

ここが、過去に仕事を辞めたときと決定的に違った

モバイル販売員を辞めても、万引きGメンの仕事が残っている。月に2回だけだけど、ゼロではない

EP.17で書いた通り、Gメンの時給は¥1,200で7時間勤務。月2回なら月収は¥16,800。生活できる金額ではない。でも、「まったくの無職」と「月2回でも仕事がある」では、精神的な負荷がまるで違う。

モバイル販売員(本業)

2月末で終了

万引きGメン(副業)

月2回 継続

KEY INSIGHT

辞めることを決断できたのは、この「ゼロにはならない」という事実が下支えしていたと思う。

SECTION 12

辞めると決めた日の精神状態を、
正直に書く。

EP.12で業務中のメモを全部公開した。あの精神状態の延長線上にいた。

「トランシーバーは思考を圏外にする」と書いた。
「もうおわりだよ」と書いた。
「脳の容量が仕事にほとんど持っていかれている」と書いた。

あれは全部、辞める前の脳内だった。

辞めると決めた日、一番近い感情は「解放」だったと思う。悲しみでも怒りでもない。ただ、2ヶ月間ずっと身体に乗っていた重しが、メールを送った瞬間にふっと軽くなった。

身体症状もあった。ずっと胃がキリキリしていた。それがこの日を境に少しずつ収まっていった

「やっと言えた」 という解放感。
胃のキリキリが 少しずつ引いた。
怒りでも悲しみでもない。 ただ、静かだった。
SECTION 13

14時の絶望と、13時20分の決断。

EP.12のタイトルは「ずっとここに立ってたら、おかしくなりますよ」だった。

最終勤務日に、違うキャリアの30歳くらいの男性が言った言葉。

14時の絶望は、毎日やってきた。午後に入ってからの時間が永遠に感じる、あの感覚。

辞めると決めたのは13時20分だった。14時のすこし手前。

14時の絶望が来る前に、
13時20分に、終わらせた。

──と書くとかっこいいけど、実際はただメールの返信が13時20分に来ただけだ。タイミングに意味はない。でも14時より前に決着がついたという事実は、なんとなく救いだった。

14時の絶望が来る前に、
13時20分に、終わらせた。

── 2月20日 金曜日 くもり
SECTION 14

これから家電量販店の
携帯販売員になる人へ。

EP.13にも書いたけど、もう一度書く。

受け身だとだめだ。自分から聞かないと、誰も教えてくれない。待っていても何も始まらない。これは断言できる。

でも、積極的に動いたところで、最初の3ヶ月は様子を見られる。そういう文化だった。少なくとも俺がいた現場では。

それでも続ける価値があるかどうかは、配属先のキャリアと人間関係で全部変わる。俺の場合はたまたまハズレだったのかもしれない。でも、あの2ヶ月間で学んだことが完全にゼロだったかというと──

ゼロではない。

「きつい現場で立ち続ける」という経験は、万引きGメンの仕事に活きた。EP.19で書いた棚どりの孤独さ。あれは、モバイル販売員で「立ち続ける」を経験していなかったら、もっときつかったかもしれない。

ただ、あの環境にずっといるべきだったとは思わない。

辞めなかったら、たぶんずっとティッシュを配っていた。
それはそれで一つの人生だったかもしれない。
でも俺は、あの蛍光灯の下にいる人生を選ばなかった

DATA ── EP.20

辞めると決めた日の全体像

辞めると決めた日2月20日(金曜日)
時刻13時20分頃
天気くもり
場所家電量販店の売り場(勤務中)
決断の方法派遣会社の営業担当へ「更新しません」とメール返信
契約期間本来は3月末まで → 2月末で終了
総勤務期間約2ヶ月
辞めるまで2月末まで残りシフトを消化
面談計2回(1回目:営業担当含む3名 / 最終:人事担当が登場)
並行していた仕事万引きGメン(月2回・副業・時給¥1,200)
Gメン月収¥16,800(¥1,200 × 7h × 月2回)
辞める理由(主)成長できない / 教育ゼロ / 時間が遅すぎる
辞める理由(副)有意義に時間を使いたい / Gメンがあるからゼロにならない
帰り道の音楽藤井風 or エミネム
「きついですか?」同い年の女性従業員に聞かれ「はい。きついです」と返答
14時の絶望との関係13:20に決断 → 14時の絶望が来る前に終わらせた
精神状態解放。胃のキリキリが引いた。静かだった。
親への報告言った。大きな反応はなし
おばあちゃんすぐには言っていない。でもいずれ報告した
後悔なし
CONCLUSION

2ヶ月間ティッシュを配って、
金曜の13時20分に辞めた。

家電量販店のモバイル販売コーナーに、派遣社員として約2ヶ月間いた。

教わったのは、フロアマップの紙と、スマホケースの案内方法と、場所案内の作法と、業務端末のパスワード。EP.13に書いた通りそれだけだった

教わらなかったのは、商品情報、プラン内容、接客のやり方、休憩のとり方、服装のルール、忌引きの連絡先。仕事のほぼ全部だ。


面談で「まだその段階だね」と言われた。
誰かが教えようとしたら「今そんなの教えてもしょうがないでしょ」と止められた。
別キャリアの新人は3日で商談席にいた。
俺は2ヶ月経ってもティッシュ配りだった。

2月20日、金曜日。くもり。

13時20分に派遣会社からメールが来て、「更新しません」と打った。

14時の絶望が来る前に、終わらせた。


帰り道、藤井風かエミネムを聴いていた。
くもり空の下を歩いた。
身体が軽かった

同い年の女性従業員に「きついですか?」と聞かれた。
「はい。きついです」と答えた。
「きついですよね──」と返された。

あれが、あの売り場で交わした一番まともな会話だった。


次の記事では、辞めると決めてから最終出勤日までの日々を書く。
辞めることを伝えてから、売り場の空気がどう変わったか。
誰に何を言ったか。最後の日に何があったか。

そしてEP.22では、あの最終面談の話を書く。
元アパレル店長の「シゴデキ」人事担当が出てきて、
「あなたにも至らないところがあったよね」と言われた話を。

EP.20 ── モバイル販売員篇①「辞めると決めた日」

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