苦痛の仕事の日々の中でありつけたシナリオライターの面接が転職エージェントだった話|応募200人採用1人の現実

WORK RECORD

シナリオライターの面接だと思ったら、
転職エージェントの面談だった。
応募200人。採用1人。実績ゼロ。

モバイル販売員として働きながら、YouTubeのシナリオライター求人に応募した。
面接だと思ってZoomに入った。
しかし話しているうちに気づいた──これ、転職エージェントの面談だ。
実績を聞かれて「そういうものはございません」と答えた。
提案されたのは建設事務だった。
やりたいことの前に、また下積みが置かれた。

200応募者数
エージェント談
1採用枠
この募集で
15/日1日あたりの
応募件数
21:00Zoom開始時刻
退勤後の自宅

2026.02 | WRITTEN BY KUNIMOTO | 20 MIN READ | 転職エージェント / シナリオライター / 面接 / Zoom / 20代 / 建設事務

SECTION 01

シナリオライターの求人を見つけた。
まだモバイル販売員だった頃の話。

退職日は2026年2月28日だ。携帯販売員を辞めた日の記録に書いた通り、2月20日に「更新しません」と派遣会社にメールを送った。

でも、シナリオライターの求人を見つけて応募したのは、辞めると伝えるよりも前だった。

まだモバイル販売員として出勤していた頃だ。毎日ティッシュを配り、14時の絶望に耐え、帰りに藤井風かエミネムを聴いていた。「成長できない。ここにいても意味がない」。そう確信してから、夜ごと布団の中でスマホを開いて求人を漁っていた。

そのとき目に入ったのが、YouTubeのシナリオライターの求人だった。動画の企画を考え、台本を書く仕事。自分でもYouTubeに動画を投稿していた。VOICEVOXの読み上げを使った企画もやっていた。言葉を考えることが好きだった。見つけた瞬間、心臓が跳ねた。

「これなら自分でもいけるかもしれない」。そう思って応募した。

SECTION 02

面接だと思ってZoomに入った。
夜21時、布団の上。

応募後、Zoomの面接日程が決まった。

時間は夜21時。モバイル販売員は退勤が遅い。家に帰って風呂に入り、落ち着くのが20時半。ギリギリ21時に間に合うスケジュールだった。

場所は自分の部屋。青い掛け布団の上。ファンがうるさいWindowsのノートPC。履歴書と志望動機は事前に送ってある。準備はしたつもりだった。緊張していた。モバイル販売員から抜け出せるかもしれないと、本気で期待していた。

21時。ZoomのURLをクリックした。画面に相手が映った。

SECTION 03

最初は「面接」だった。
経歴を聞かれ、志望動機を話した。

Zoomが繋がった。画面の向こうに、落ち着いた雰囲気の男性がいた。スーツではない。柔らかい話し方をする人だった。

最初の数十分は、完全に面接の空気だった。現在の仕事の状況を聞かれ、人材派遣会社の正社員として家電量販店のモバイル販売コーナーに配属されていること、もともとはSNSコンサルタントとして採用されたが実際には携帯販売の現場だったことを伝えた。相手は「入社前の説明と違ったということですね」と返した。

経歴を話した。SSS社(仮名)の正社員として入ったが実態はモバイル販売だったこと。スーパーの保安員もやっていたこと。学歴のこと。話しながら、自分の経歴の薄さを改めて感じた。

志望動機も聞かれた。言葉を考えることに興味があること、VOICEVOXを使って自分でも動画を作っていたこと。ここまでは順調だった。自分の中では「ちゃんと面接してもらえている」と感じていた。シナリオライターの仕事に就けるかもしれないという期待が、画面の向こうに見えていた。

SECTION 04

「これ、面接じゃない」。
途中で気づいた瞬間。

違和感が生まれたのは、話が中盤に差しかかった頃だった。

面接なら、「なぜこの会社を志望したのか」「この職種で何がしたいのか」を深掘りするはずだ。でも相手が聞いてきたのは「今後のキャリアの方向性」だった。「あなたの希望に合う求人をご紹介します」という言い回しも出てきた。

そして相手が自分の立場を説明し始めた。

相手
私はですね、採用の代行をしているアドバイザーという立場なんですよ。企業側から採用のご依頼をいただいて、候補者の方とお話しして、マッチングするのが仕事です。

採用代行アドバイザー。つまりシナリオライターを採用する会社の人間ではなく、採用を仲介するエージェントだった。求人サイトに出ていた「シナリオライター募集」は、エージェントへの入口だったのだろう。

シナリオライターとして自分を見てもらえる場だと信じていた。実力を評価してもらえると思っていた。でもそうじゃなかった。俺の前にいるのは「採用する人」ではなく「仲介する人」だった。

胸の温度が少し下がった。

でも──Zoomを切れなかった。

エージェントだと分かった時点で、「ありがとうございました」と言って退出することもできたはずだ。でもできなかった。シナリオライターの面接にありつけたという期待がまだ残っていた。面接じゃなかったと頭では分かっても、その期待を自分から手放す勇気がなかった。それに、相手が丁寧に話してくれている以上、こちらから遮断できない性格だった。

だから話を続けた。

KEY INSIGHT

面接だと思い込んでいる人間にとって、「面接じゃなかった」と気づく瞬間は、不採用の通知よりもきつい。不採用は「評価された結果」だ。しかし「面接じゃなかった」は、評価のテーブルにすら座っていなかったということだ。

SECTION 05

実績を聞かれた。
「そういうものはございません。」

面談はそのまま続いた。話題が実績に移った。

相手
何か、実績として見せられるものはありますか?チャンネルとか、登録者数とか。
自分
そういうものはございません。

正直に答えた。見せられるチャンネルはない。登録者数を語れるような段階ではない。相手に提示できる数字は、何も持っていなかった。

沈黙が数秒あった。Zoomの画面越しの沈黙は、対面よりも重い。相手の表情が読みにくい分、想像で補ってしまう。「ああ、ダメだったんだな」と自分で結論を出してしまう。

「そういうものはございません。」

この一言を口に出す瞬間、
声が少し震えていたと思う。あの数秒の沈黙の重さは、今でも覚えている。

SECTION 06

フィードバックが始まった。
画面共有で「現実」が映し出された。

面談の後半、空気がはっきり変わった。アドバイザーが画面共有を始めた。Zoomの画面にスライドが映し出された。シナリオライターの求人市場のデータだった。

相手
今回の募集で、大体200人くらい応募が来てます。

200人。

想像していた数字とはケタが違った。YouTubeのシナリオライターという、一見ニッチに見える職種に、200人が殺到している。1日あたり約15件の応募が届いているという。そして採用枠はたったの1人だ。

さらにアドバイザーは応募者の内訳を説明した。

応募者の内訳 ── エージェント談

約半数がプロ経験者。大手制作会社やサイバーエージェント出身など、映像・コンテンツ業界の実務経験を持つ応募者が50%を占めている。上位20%はリーダー格で、チームのディレクション経験がある。さらに20%がライター経験者で、Web記事や書籍など別ジャンルからの転向組。未経験は全体の約10%。──そこに俺がいた。

相手
結構ひどいですね、正直に言うと。この状態だと、書類の段階でかなり厳しい。

「結構ひどいですね」。この言葉は攻撃ではなかった。事実の提示だった。だから余計にきつかった。反論のしようがない。200人の中で最も採用から遠い位置にいることを、画面共有の数字で突きつけられた。

SECTION 07

「戦っていきたい気持ちはあるんですけど」。
あの一言が、この面談で一番重かった。

200人。採用1人。半分がプロ。未経験は10%。画面共有のスライドに並ぶ数字を見ながら、黙った。反論のしようがなかった。

でも、ひとつだけ言った。

自分
戦っていきたい気持ちはあるんですけど……。

この一言が、自分の中では一番重かった。

俺はこの面接に──面接だと思っていたものに──本気で期待していた。モバイル販売員の毎日から抜け出せるかもしれない。ティッシュ配りではなく、言葉で仕事ができるかもしれない。応募ボタンを押したときも、Zoomを開いたときも、経歴を話したときも、ずっと期待していた。

その期待が、200人という数字で砕かれた直後に出た言葉が「戦っていきたい気持ちはあるんですけど」だった。

自信なんてなかった。あるわけがない。実績ゼロ。経歴は薄い。画面の向こうから「結構ひどいですね」と言われている。それでも、「気持ちだけはある」ということだけは伝えたかった。それを言わなかったら、この1時間が完全に無意味になる気がした。

相手
気持ちがあるのはいいことです。ただ、気持ちだけだと200人の中では正直厳しい。数字をつくらないと、土俵にすら上がれない状態なんですよ。

「土俵にすら上がれない」。気持ちは認めてくれた。しかしその上で、気持ちだけでは200人の壁は越えられないと、はっきり言われた。事実だと思った。悔しいが事実だった。

あの「戦っていきたい気持ちはあるんですけど」という言葉には、自信のなさが全部入っていた。語尾の「……」に全部が詰まっていた。「あるんですけど、実績があります」とも「あるんですけど、こういうプランがあります」とも言えなかった。「あるんですけど」で止まるしかない人間だった。

「戦っていきたい気持ちはあるんですけど……」

この「……」に、
24年分の自信のなさが詰まっていた。

SECTION 08

LINE登録を勧められた。
断れなかった。
どうせブロックすると分かっていても。

フィードバックの途中で、アドバイザーから提案があった。「もしよければ、弊社のLINEを友だち追加していただけますか。今後の求人情報や、合いそうな案件があればご紹介できますので」。

LINE。友だち追加。ここで完全に確信した。これは面接ではない。転職エージェントの登録面談だ。シナリオライターの面接だと思って入ったZoomは、最初からエージェントの集客導線の上にあった。

分かっている。追加しなくていい。この先、このLINEから有益な求人が来ることはたぶんない。建設事務の案件が流れてくるだけだろう。どうせすぐにブロックする。自分でもそう分かっていた。

でも、追加してしまった。

断れなかった。「結構です」の一言が出なかった。相手が丁寧に対応してくれている。1時間も時間を使ってくれた。業界の現実まで教えてくれた。その人に対して「LINE追加しません」と言うことが、できなかった

これが俺の弱さだ。

エージェントだと気づいた時点でZoomを切れなかった弱さ。200人の現実を聞いた後も「ありがとうございました」と言って聞き続けた弱さ。そしてどうせブロックするLINEを、その場で断れずに追加してしまう弱さ。全部、同じ根っこから来ている。

「嫌です」が言えない。「やめます」が言えない。「結構です」が言えない。その場の空気を壊すことが怖くて、相手の提案を全部受け入れてしまう。受け入れてから、後で一人になってからブロックする。面と向かっては何も言えない。

KEY INSIGHT

Zoomを切れなかったのも、LINEを断れなかったのも、同じ構造だ。「この場を壊したくない」という気持ちが、「自分を守る」よりも先に来る。相手に悪いと思ってしまう。だから受け入れる。受け入れてから、一人になって後悔する。──面談だけの話じゃない。モバイル販売員を2ヶ月続けたのも、たぶん同じ理由だ。

SECTION 09

提案されたのは、
建設事務のアシスタントだった。

「では、現実的なルートとして──」

アドバイザーはそう切り出して、建設業の事務アシスタントを提案してきた。書類作成、データ入力。未経験OK。月給は約20万円。まずここで事務経験を積み、数年後にクリエイティブ系へステップアップする、という流れだった。

シナリオライターの面接だと思って入ったZoomで、建設事務を勧められている。この状況のおかしさを、俺は静かに受け止めていた。

理にかなっている。客観的に見れば正しい。実績ゼロの人間に対する現実的なアドバイスとして、これ以上合理的な提案はない。

でも、合理的であることと受け入れられることは別だ。

SECTION 10

「まず下積みを」。
このセリフ、前にも聞いた。

既視感があった。強烈な既視感だ。

派遣会社に入社したとき、求人票には「SNSコンサルタント」と書いてあった。しかし実際に配属されたのは、家電量販店のモバイル販売コーナーだった。「最初の1年半〜2年は下積み」と言われた。

今回も同じだ。シナリオライターをやりたいと言ったら、建設事務を勧められた。

やりたいこと

「まずは下積みを」

やりたいことと全然違う仕事

SNSコンサルタントの前にモバイル販売。シナリオライターの前に建設事務。やりたいことの手前に、関係ない仕事が挟まれるループだ。

しかもその下積みは、やりたいことに繋がる保証がない。モバイル販売の2ヶ月はSNSコンサルに1ミリも活きなかった。建設事務がシナリオライターに繋がる根拠もない。

ループ構造
「やりたい」→「まず下積み」→ 関係ない仕事 → 疲弊 → 辞める → 「やりたい」→「まず下積み」→ …

SECTION 11

Zoomを閉じた夜。
布団の中で天井を見ていた。

面談は約1時間だった。22時過ぎにZoomを閉じた。

部屋は暗かった。画面の光がなくなると、自分の部屋がいつもより狭く感じた。モバイル販売員の勤務を終えて帰宅し、シャワーを浴びて、21時からZoomを開いた。退勤後の疲れた身体で、1時間、画面越しに知らない人と話した。

怒りはなかった。アドバイザーに対しても、求人を出した会社に対しても。むしろ、時間を割いて業界の現実を教えてくれたことには感謝していた。「結構ひどいですね」と正直に言ってくれたことで、自分の立ち位置を初めて数字で理解した。

ただ──「ありがたい」と「悔しい」は共存する。正しいことを言われたからこそ悔しい。嘘を言われていたなら、怒りで済んだ。事実を突きつけられたから、受け止めるしかなかった。

スマホを開いた。LINEの友だちリストに、さっき追加したばかりのエージェントのアカウントがある。

──明日、ブロックしよう。

そう思いながら、布団を被った。

SECTION 12

面接じゃなかった、という事実を
どう受け止めたか。

一番こたえたのは、「200人中1人」でも「建設事務」でもなかった。

面接だと思っていたものが面接じゃなかった、という事実だった。

シナリオライターとして評価してもらえる場だと信じていた。実力を見てもらえると思っていた。でも相手は「実力を評価する人」ではなく、「求人を仲介する人」だった。俺の動画を見て判断する場ではなかった。スペックシートだけで判断し、確率の低い求人の代わりに確率の高い求人を勧める場だった。

冷静に考えれば、エージェントの仕事としては正しい。求職者を内定しやすいポジションに導く。それが仕事だ。

でもあの夜の俺は冷静じゃなかった。シナリオライターの面接だと思って、緊張して、準備して、21時にZoomを開いた。その期待ごと、静かに崩された。

SECTION 13

このループから出る方法は、
「回り道」じゃないと思った。

建設事務に行き、2〜3年実務経験を積み、クリエイティブ系に転職する。エージェントが提案した「現実的なルート」。

でも携帯販売員を辞めた日の記録で書いた通り、派遣会社でも同じことを言われた。「最初の1年半〜2年は下積み」。その下積みの中身は、ティッシュ配りだった。

下積みの先に、やりたいことがあった試しがない。

じゃあどうするか。回り道じゃなく、自分の手で直接作るしかない。自分で動画を作り、自分で文章を書き、「見ればわかる実績」を積み上げるしかない。

──と、あの夜の布団の中で思った。思っただけで、まだ何もしていなかったけど。

KEY INSIGHT

「下積みの先にやりたい仕事がある」は、俺の人生では一度も実現していない。エージェントの提案は「正しい」のかもしれない。でも俺が信じられるのは、自分の手で作ったものだけだ。このブログと、まだ形にならない動画たち。それしかない。

SECTION 14

この面談の後に起きたこと。

数日後、「更新しません」と5文字を打った。携帯販売員を辞めた日の記録。モバイル販売員を辞めた。面談で200人の現実を知ったから辞めたわけではない。辞めたい気持ちは、面談の前からすでにあった。しかし、「今のままでは何にもなれない」と突きつけられたことが、辞める判断を後押ししなかったかと言えば、嘘になる。

退職後1ヶ月の記録に書いた通り、退職後1ヶ月は何もしていない。DaVinci Resolveに5万円払った。ブログを書き始めた。布団の中でYouTuberの過去動画を掘っていた。

全部、あの夜の面談の延長線上にある。

エージェントに「建設事務はどうですか」と言われた夜から、「自分で作るしかない」というモードに入った。まだ何も形になっていない。でもモードだけは、あの夜に切り替わった。

DATA

転職エージェント面談の全体像。

面談時期2026年2月(退職日2/28より前・在職中)
形式Zoom(オンライン)
開始時刻21:00(退勤後・自宅)
所要時間約1時間
構成前半:面接形式(経歴・志望動機)
後半:フィードバック(画面共有で業界データ提示)
応募時の認識シナリオライターの面接
実態転職エージェントの登録面談
LINE登録面談中に友だち追加を勧められた(断れなかった)
当時の職業人材派遣会社の正社員(モバイル販売員として勤務中)
希望職種YouTubeシナリオライター
応募総数約200人(1日あたり約15件)
採用枠1名
応募者内訳約50%プロ経験者 / 約20%リーダー格 / 約20%ライター経験者 / 約10%未経験
実績の質問チャンネル・登録者数を聞かれ「そういうものはございません」と回答
提案された仕事建設業の事務アシスタント(未経験可・月給約20万円)
ループ構造SNSコンサル→実態はモバイル販売
シナリオライター→提案は建設事務
やりたいことの前に関係ない下積みが置かれる
面談後2/28退職 → ブログ開始 → DaVinci購入 → 自力で作る方向へ

CONCLUSION

面接だと思ったら
転職エージェントだった夜に、
残ったもの。

シナリオライターの面接だと思ってZoomを開いた。1時間後、自分が転職エージェントの登録面談にいたことを知った。

実績を聞かれた。「そういうものはございません」と答えた。返ってきたのは「200人中1人」という数字と、「建設事務はどうですか」という提案だった。

やりたいことの前に、また下積みを挟まれた。SNSコンサルタントのときと同じ構造だった。

「戦っていきたい気持ちはあるんですけど」と言った。語尾の「……」の先に続く言葉を、俺は持っていなかった。

LINEを追加した。断れなかった。どうせブロックすると分かっていても、その場で「結構です」が言えなかった。Zoomも切れなかった。全部、同じ弱さから来ている。

でもあの夜から、少しだけモードが変わった。「誰かに認めてもらってから始める」のではなく、「自分で作って、結果で証明する」しかないと思った。

まだ何も形になっていない。でもこの文章を書いている。あの夜のZoomの1時間を、ここに記録している。

200人の列は、今も俺の前に伸びている。

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