LUCID LOG — 移住記録
携帯ショップを辞めて
大分に移住したのに、
また携帯ショップが
選択肢に並んでいる。
携帯ショップを辞めた。大分に移住した。
移住支援金60万円は蹴った。5年縛りだったから。
レオパレスと8回電話して、部屋を押さえて、審査待ち。
7件応募した。返信が途絶えた。ドンキは書類で落ちた。
コールセンターの電話面接が明後日ある。
それも落ちたら、また携帯ショップかもしれない。
辞めたはずのものが、まだ追いかけてくる。
SECTION 01 ── DECISION
大分に行くことにした。
大分に移住をきめた。
しょうもない理由だ。笑えばいい。
俺が一時期好きで見ていた配信者がいた。32歳ぐらいの女性で、その人が大分にいた。それだけだ。だからといってその人にアプローチするとかそういうのはない。結局はそんな軽いものだった。きっかけなんて。
でも軽いきっかけの裏には、重い理由がある。
実家住みだった。食べ物が合わない。生活のリズムが合わない。考え方が合わない。ちょっと前まで父のことが嫌いだった。実は。
地方移住してまっさらな心を入れ替えたいと思っている。
おじいちゃんは転勤族みたいなもんだった。父に振り回されて転々とした。またここに飛ばされ、また飛ばされ。結局40代になってからはずっと同じ工場で働いていた。そこが母の今の実家。つまり俺が生まれた場所だ。
おじいちゃんは転々として、最後にひとつの場所に落ち着いた。
俺も転々としている。携帯販売員の派遣を2ヶ月で辞めた。万引きGメンを辞めたら5万円ただ働きになった。シナリオライターの面接がエージェントの釣りだった。LP制作を諦めた。転々として、まだどこにも着いていない。
おじいちゃんとの違いは、おじいちゃんには「飛ばされる先」があったことだ。会社が決めてくれた。俺には何も用意されていない。自分で決めるしかない。自分で決めた結果が、好きだった配信者のいる大分だった。
父の年収が、思っていたより100万円多かった
レオパレスの契約で、保証人の書類として父の給料明細が必要になった。3ヶ月分。それを見ることになった。
うわ。まじか。結構多いじゃん。
あんなに休日はテレビ見てご飯食べて、飲食店で好みの店を開拓して、週に一回ジムに行く程度の人が。俺が思っていたより100万円多かった。だいたい50代なかばはこれぐらいもらっているんだろうなぁという予想が自分の中にあって、その額を100万円超えてきた。少なくとも俺が入り浸っている5chのニュー速嫌儲の住民よりは大層だった。
俺って本当に軽い男だ。少し尊敬した。いやこれはマジで。ここ最近の一番の衝撃だった。かっこいいとも思った。
いつか父がチェーンのイタリアンレストランで語っていた。祖父が死んだ後だったかな。祖父の話題が出たとき、「おじいちゃんはどんな印象?」と聞かれて、俺は「こわい」と答えた。次に父の口から出たのは「一番尊敬してる」という予想外の言葉だった。
俺も将来そうなるのかもしれない。最低限尊敬できるという人格を持って、これから成長していきたい。その願望を大分に託した。
SECTION 02 ── ¥600,000
60万円を蹴った。
もらわないことにきめた。五年のしばりがでかい。くそすぎるだろ。
地方移住には支援金の制度がある。俺が狙っていた市は60万円だった。けれども条件を見た。5年間、その地域に住み続けなければならない。途中で出たら返金。
携帯ショップの派遣を2ヶ月で辞めた人間に、5年の定住を求める制度だ。
DaVinci Resolveに5万円、琴葉茜AIVoice2に1万円、サーバー代が月1,000円。俺の出費のスケールからすれば、60万円はとんでもない金額だ。それでも蹴った。
5年は長すぎる。24歳の俺が29歳になるまで、ひとつの場所に拘束される。これは支援金じゃない。拘束の前払いだ。
KEY INSIGHT
移住支援金60万円。条件は5年間の定住。途中離脱で全額返金。派遣の契約ですら2ヶ月で抜けた人間が、5年の約束を結べるわけがない。だから蹴った。
SECTION 03 ── LEOPALACE
レオパレスとの8回の電話。
レオパレスとの契約が思った以上に手間のとらされる内容だった。
恥ずかしながら人生で初めての契約だった。こんなにコールセンターのやつと話し合うことになるとは思わなかった。しかも電話の相手が全員女性だった。合計8回の電話。申し込みからだいたい1週間。いったん部屋を押さえた。家賃は月3万5千円。あとは審査待ちの状態。
最初の1回目は向こうからかかってきた。たぶん物件の確認だったと思う。そこから面談だったり、書類の話だったり。
一番長かった電話は、契約内容をもう一度口頭で説明してもらったときだった。ガスはこう契約するとか、こういう家具がついていますとか、保証人の書類ではこれが必要ですとか。ひとつひとつは大したことじゃないのに、全部が積み重なって手間になる。
勤務先の欄に「無職」と書いた
「なにもされていないということですと無職の扱いになります」
レオパレスの電話対応の人にはっきり言われた。
あぁわかりました。となんてことないように返した。
いちおうちょっと前まで働いていた。携帯ショップの派遣をやっていた。それでも今は無職だ。自分で住むところも確保できない身分。それが無職。
保証人を母から父に変えた夜
保証人は母にするつもりだった。しかし母の年収では審査に落ちると言われた。
しぶしぶ父親にした。
母が夕飯の席でそのことを話して、俺もそのとき頼んだ。本当に申し訳ないと思った。情けないと思った。そして父の給料を見ることになると分かっていた。3ヶ月分の給料明細がいるから。
電話の相手が全員女性だったことが気になった理由がある。コールセンターの面接がこれから控えているからだ。男は落とされるんじゃないかと思った。
派遣を辞めた「逃げ」と、地方移住の「逃げ」。どちらも戦略的な逃げで一緒だと思っている。ただし地方移住には少しネガティブな意味合いが強い。それでも自分が本当に挑戦する気でやっている。その第一の挑戦が、レオパレスとの契約だった。人生で初めて自分の名前で部屋を借りるという行為だった。
俺やっぱりコールセンター向いていないのか? 父は尊敬する。
SECTION 04 ── MOBILE SALES, AGAIN
モバイル販売員が
また立っていた。
実家は都会と地方の中間。地方都市みたいなものだ。そこのショッピングモールに、私服を着たモバイル販売員が立っている。
前を通るときに思う。あぁやってんな。あぁーでも意外と楽しそうじゃん。なんだよ。
昨日もいなかのデカいモールに行ったとき、立っていた。声をかけられたとき、平然と無視をした。
けど「無視をした」とわざわざ書けるのは、俺がモバイル販売員だったからだ。普通の人なら「あぁそういえばモバイル販売員に話しかけられたな」程度で、日常に戻りきってしまっている。俺は戻りきれていない。だからわざわざ書いている。
モバイル販売員は、まともな人が多かった。まともなコミュニケーションが取れる人のことだ。いくらカップラーメンを食う男女だからといって、仕事は仕事。素人の自分から見ても「うわぁちゃんとしているわ」と思った。
それがひっきりなしに募集されている。
まじなんなん?
まともな人が多いのに常に人が足りない。つまり、まともな人ほど辞めていく構造がそこにある。俺もその構造の中にいた。そしてその構造は、大分にも同じように存在している。
はたらいくで大分の求人を開いたとき、携帯ショップの求人が出てきた。
また働いてもいいかもと血迷った。もう人間って1ヶ月前のことを忘れるんだな。あんなに大変だったのに。あんなに頭が使えなくなる仕事だったのに。あんなに緩やかに壊れていく仕事だったのに。
KEY INSIGHT
携帯ショップを辞めて1ヶ月。求人サイトで携帯ショップの募集を見て「また働いてもいいかも」と血迷った。あんなに緩やかに壊れていく仕事だったのに、人間は1ヶ月で忘れる。
SECTION 05 ── BIG THREE
三大巨頭。
自分がモバイル販売員だと親戚にいってしまったことが恥ずかしい。あぁやってしまったと。あぁと思うことが増えた。
この世の中まじで糞ゲーだなって思った。
地方移住で給料面もそこそこよく、募集がある仕事。やっぱりかぁ、と思った。当たりの所はすでに優秀な人が入っていて、空きが少ない。マーケティング関係なんかは特にそうだ。モバイル販売と三大巨頭をはれるような顔ぶれが並んでいる。
葬儀の求人はクリックした。最近おじいちゃんが死んだから。悪くない仕事だなと思った。けど不覚にも笑ってしまいそうになったり、突然、遺体と同じ空間にいることに耐えられなくなって精神的に壊れたら怖いと思って、やめた。
おばあちゃんには会うたびに「いつ結婚するん?」と言われる。彼女の有無は聞かれない。いきなり結婚だ。生まれてこのかた付き合ったことがない人間に。
おばあちゃんの「飛び立つ」は、都会に行けということじゃない。都会じゃなくてもいいから、ちゃんとそれなりの給料の仕事について、家賃光熱費もろもろ払って、結婚して子どもを作っても大丈夫なぐらいに稼げという文脈だ。
そこで突然「地方移住して奥さん見つけました」なんてことはありえない。そもそも気分が沈み込んでいる。
SECTION 06 ── 7 APPLICATIONS
7件応募した。
返信が途絶えた。
大分で7件の求人に応募した。
コールセンター、映像制作、ポスティング、ドン・キホーテの正社員。ほか。
ポスティングは「これならある程度自由にできる」と思って応募した。
返信が途絶えた。急にだ。え? さっきまで会話してたじゃん。地方って返信率が低いのか、たまたまなのか。もうどうなっているんだよ。
ドンキの正社員は書類で落ちた
ドン・キホーテの正社員に応募した。書類審査で落ちた。
LINEで来た。淡泊なメッセージだった。
「ドン・キホーテさんの件でご連絡です。残念ながら今回はお見送りという結果となってしまいました。お力添えできずに申し訳ございませんでした。」
淡泊なものこそが逆にいらつかせるのに。
書類審査で不採用。淡泊なメッセージが届いた。
SECTION 07 ── CALL CENTER
コールセンターの面接が
明後日ある。
Indeedで見つけた。これからの季節に必要なもののカスタマーコール。
最初に思ったのは「これならいける」だった。そしてその次に思ったのは、女性と働けて、結婚できるかもしれない、だった。最悪なダメ男だよな。できるわけないと思っていても、まだ望みを捨てきれずにいる。
応募してから試験を受けるまで1日だった。
古い方のパソコンで受けた。タイピングを押した感覚が少ない方の。試験の内容は、常識問題、漢字、計算問題。それとタイピングテストとテンキーで文字を打つやつ。左に文字が並んでいて、それを右のエリアに入力していく。3分間。思ったより間違えるしミスる。
手応えは、さすがに受かるだろうと思った。
面接はオンラインですらない。電話だ。明後日。
さっきまでレオパレスのコールセンターと8回電話していた人間が、今度はコールセンターで働くかもしれない。
落ちたら、また携帯ショップかもしれない
コールセンター落ちたらやるかも。もう悲しくなってくる。どっちも人が進んでやりたいと手を上げるような仕事じゃない。もういいかげんにしてくれ。
「またやるかもしれない」と思い始めたのは、意外とまともな人が多かったなという過去の美化が始まったからだ。
浮かぶのはうちのエースだった人。モアイ像みたいな顔の人。髪をワックスで固めて、コーティングやウイルス対策や機種変を取るのがうまかった人。あの人の仕事ぶりを思い出すと、悪くなかったなと思ってしまう。
実際に仕事する日々が連続で続くと、マジのガチのきついのだろうけど。
やるとしたら前と同じ派遣だろう。ただし家電量販店じゃなくてショップの方。店舗の方。家電だとまた声かけばかりになって同じことの繰り返しになる。
結構未経験には優しい仕事なんだ。教育がなっている。ただし、出ていくのが前提の仕事。
KEY INSIGHT
携帯ショップを辞めて大分に移住した。7件応募して、返信が途絶えて、ドンキは書類で落ちた。残ったのはコールセンターの電話面接。それも落ちたら、辞めたはずの携帯ショップがまた選択肢に並ぶ。逃げた先で、逃げたものに追いつかれている。
EPILOGUE
携帯ショップを辞めた。大分に行くことにした。60万円を蹴った。レオパレスと8回電話した。7件応募して、返信が途絶えて、ドンキは書類で落ちた。
でもコールセンターの面接が明後日ある。
落ちたら、また携帯ショップかもしれない。
辞めたはずのものが、まだ追いかけてくる。
地方移住してまっさらな心を入れ替えたいと思っている。
まだ何も入れ替わっていない。
でも進んでいる。
──明後日の電話を待っている。
ARTICLE DATA
この記事のスペックシート。
| 書いている人 | 24歳 / 元モバイル販売派遣員 / 現在は無職・月収¥0 |
|---|---|
| テーマ | 携帯ショップを辞めて大分に移住した24歳の仕事探し全記録 |
| 移住先 | 大分県 |
| 住居 | レオパレス / 月額¥35,000 / 部屋確保済み・審査待ち |
| 移住支援金 | 60万円 → 辞退(5年定住縛りのため) |
| 求人応募 | 7件(コールセンター・映像制作・ポスティング・ドンキ正社員ほか) |
| 結果 | ドンキ書類落ち / 複数件返信途絶 / コールセンター電話面接が明後日 |
| 携帯ショップ | 未応募。コールセンター落ちたら応募するかもしれない |
| 求人サイト | Indeed / はたらいく |
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