2ヶ月いて、明確にほめられたのは2回だった。モバイル販売派遣員が「認められる瞬間」の記録。

WORK RECORD

2ヶ月いて、明確にほめられたのは2回だった。
モバイル販売派遣員が「認められる瞬間」の記録。

家電量販店のモバイル販売員として派遣された24歳。
2ヶ月間で明確にほめられたのは2回だけ。
声出しとコーティング見学の記憶力。
ティッシュ配りにほめの余地はなかった。

2回明確にほめられた
回数(2ヶ月間)
2ヶ月総勤務期間
3ヶ月契約の途中
0回商談席に
座った回数
1回コーティング見学
辞める2日前

2026.04 | WRITTEN BY KUNIMOTO | 16 MIN READ | モバイル販売員 / 派遣 / 家電量販店 / 褒められる / 教育 / 実態

SECTION 01

2ヶ月いて、明確にほめられたのは2回だった。

家電量販店のモバイル販売コーナーに派遣された約2ヶ月間。教育はほぼなし。辞めると決めた日の記録でも触れた通り、主な業務はティッシュ配りだった。

「明確にほめられた」回数を数えてみたら、2回だった。

2ヶ月。週5日出勤。1日8時間。合計すると約320時間の勤務時間の中で、上司や先輩から「よかった」「すごい」と言われたのはたったの2回。その2回がどういう場面で起きたのかを、ここに記録する。

SECTION 02

1回目──「結構声出てましたね。いいじゃん」。

1回目のほめは、上司からだった。

モバイル販売コーナーでは、来店客への声出しが仕事のひとつだった。「いらっしゃいませ」「本日キャンペーンやっておりまーす」。ティッシュを差し出しながら、通り過ぎる客に声をかける。ほとんどの客は目も合わせずに通り過ぎる。

ある日、上司がフロアを巡回していた。俺が声出しをしているのを見ていたらしい。巡回が終わった後、上司が近づいてきて言った。

上司
結構声出てましたね。いいじゃん。

それだけだった。5秒で終わった。

でも、あの5秒は覚えている。2ヶ月の中で、上司から「いいじゃん」と言われたのはあの1回だけだった。声出しという、最もシンプルな行為。商品知識も接客スキルもいらない、ただ大きな声を出すだけ。そこだけが認められた。

裏を返せば、声出し以外の場面で認められるチャンスがなかったということだ。

SECTION 03

ティッシュ配りの日常。
ほめようがない仕事。

日常の大部分はティッシュ配りだった。ポケットティッシュにキャンペーンのチラシを挟んで、通行人に渡す。受け取ってもらえたら「ありがとうございます」、無視されたら次の人へ。これを1日8時間のうち、かなりの時間やっていた。

ティッシュ配りには、ほめようがない。配る速度を上げても意味がない。丁寧に渡しても気づかれない。上司が横を通っても、ティッシュを渡しているだけの人間に対してかける言葉がない。「いい渡し方ですね」とは誰も言わない。

商談席に座ったことは一度もなかった。プランの説明をしたこともない。契約に関わったこともない。ブギーボードに料金を書いたこともない。JANコードを扱ったこともない。配属されてから辞めるまで、ずっとフロアの端にいた。

教育がなかったことは辞めた日の記録にも書いた。「まだその段階だね」と言われ続け、その段階から一度も進まなかった。

SECTION 04

2回目──コーティング見学と、
「さっきすごかったね」。

2回目のほめは、辞める2日前のことだった。

コーティング──スマートフォンのガラスコーティング施工──を担当していた先輩のIさんが、見学させてくれた。コーティングは通常の販売業務とは別の技術職で、俺の業務範囲には含まれていなかった。でもIさんが「見てみる?」と声をかけてくれた。

Iさんがコーティングの手順を説明しながら施工するのを、横で見ていた。液剤の塗り方、乾燥の待ち時間、仕上げの拭き方。Iさんは手を動かしながら工程をひとつずつ説明してくれた。

見学が終わった後、Iさんが何気なく工程の順番を聞いてきた。俺は見たままの順番を全部答えた。

Iさん
さっきすごかったね。全部覚えてた。

Iさんは驚いていた。1回見ただけで工程を全部覚えていたことに対して、素直に「すごい」と言ってくれた。

辞める2日前だった。あと2日で退職する人間が、初めて見学したコーティングの工程を全部記憶していた。その記憶力に対するほめだった。

2ヶ月で2回。
声出しと、記憶力。

どちらもティッシュ配りの業務とは関係ない場面でだけ、ほめが発生した。

SECTION 05

自己評価──偏差値50以上だと思っていた。
実際は45だった。

正直に言えば、自分は周囲より少し上だと思っていた。偏差値で言えば50以上。平均よりは仕事ができる人間だという自己評価があった。

でも実際は偏差値45だった。

5人いるスタッフの中で、自分の立ち位置は5番手。最下位だ。商談に座ることもなく、プラン説明もせず、ティッシュを配っているだけの人間。客観的に見れば、チームに対する貢献度は最も低い。

偏差値50以上だと思っていた自分が、実際には45で、5番手で、ほめられたのは2回だけだった。この落差は、辞めた後に振り返ってようやく受け止められた。勤務中は「まだ教育されていないだけだ」「機会がないだけだ」と思っていた。でも結果として、2ヶ月間で評価されるポイントがほとんどなかった。

SECTION 06

なぜほめが発生しなかったか。

ほめられなかった理由は、能力の問題だけではないと思っている。

ほめが発生するには、「評価ポイントのある仕事」を任される必要がある。商談に座れば、成約できたかどうかで評価される。プラン説明を任されれば、分かりやすかったかどうかで評価される。クレーム対応を任されれば、解決できたかどうかで評価される。

しかし俺が任されていたのはティッシュ配りだった。ティッシュ配りには評価軸がない。「今日のティッシュの渡し方、よかったですね」という上司はいない。

つまり、ほめの構造的な不在だ。個人の能力以前に、評価の機会そのものが与えられていなかった。2ヶ月間、評価のテーブルに座れなかった。シナリオライターの面談で「評価のテーブルにすら座っていなかった」と書いたが、モバイル販売の現場でも同じことが起きていた。

KEY INSIGHT

ほめが発生しなかったのは、能力の問題だけではない。評価ポイントのある仕事を任されなかったという構造の問題だ。ティッシュ配りに評価軸はない。声出しとコーティング見学──ティッシュ配り以外の場面でのみ、ほめが生まれた。

SECTION 07

5番手という立ち位置。

チームには5人いた。自分は5番手。最後尾だ。

1番手と2番手は商談を回していた。3番手はアクセサリーの案内やフォローを担当していた。4番手は自分より少し先に入った人で、少しずつ商談のサポートに入り始めていた。そして5番手の俺は、フロアの端でティッシュを配っていた。

5番手の人間に声がかかることはほとんどない。朝礼で名前を呼ばれることも、退勤時に「今日お疲れ」と言われることも、なかったわけではないが、業務上の評価として何かを言われることはなかった。

5人中5番手。その事実を、俺は勤務中に認めることができなかった。「まだ教えてもらっていないだけだ」「環境が悪いだけだ」。そう思い続けていた。でも辞めた後に冷静に振り返れば、2ヶ月間ずっと5番手だった。

SECTION 08

ほめの構造的不在。

ここまでを整理する。

2ヶ月で明確にほめられたのは2回。1回目は声出し。2回目はコーティング見学時の記憶力。どちらもティッシュ配りの業務範囲外で起きた。ティッシュ配り自体に対する評価は、2ヶ月間で一度もなかった。

つまり、ほめは「通常業務の外」でしか発生しなかった。これは俺の能力が低かったからだけではない。通常業務(ティッシュ配り)に評価軸が存在しなかったからだ。評価の仕組みがない場所で評価されることはない。

辞意表明3日後の面談でも、上司から具体的なフィードバックはなかった。「まだその段階だね」の繰り返しで、何をどう改善すればいいのかも示されなかった。評価の仕組みだけでなく、教育の仕組みもなかった。

SECTION 09

2回のほめが教えてくれたこと。

逆に言えば、2回のほめは「俺の能力が発揮できるポイント」を示していた。

1回目──声出し。大きな声を出せること。物怖じしないこと。これは性格的な資質であり、鍛えたわけではない。でも上司の目に留まった。

2回目──記憶力。1回見た工程を全部覚えていたこと。これは自分でも意外だった。記憶力が良いという自覚はなかったが、Iさんの反応を見て「他の人は1回で覚えられないのか」と気づいた。

2回のほめは、どちらも「与えられた仕事」ではなく「たまたま能力が見えた瞬間」に発生した。つまり、ティッシュ配りでは見えなかった能力が、別の場面で偶然表に出た。

親ガチャの呪いが軽くなった日にも書いたが、自分の得意なことが何なのかは、やってみないとわからない。ティッシュを配り続けても、自分が何を得意としているのかは永遠にわからなかった。2回のほめは、たまたまの偶然で能力の片鱗が見えた瞬間だった。

CONCLUSION

2回のほめと、ほめの余地がなかった2ヶ月。

2ヶ月いて、明確にほめられたのは2回だった。

1回目は声出し。上司の「結構声出てましたね。いいじゃん」。2回目はコーティング見学。Iさんの「さっきすごかったね」。

どちらもティッシュ配りの外で起きた。通常業務の範囲では、評価される場面が一度もなかった。声出しと記憶力──この2つだけが、2ヶ月間で俺の能力が表に出た瞬間だった。

偏差値50以上だと思っていた。実際は45で、5番手だった。でもその45の中に、声出しと記憶力という評価ポイントがあった。ティッシュ配りでは見えなかっただけで、別の場面では認められるものがあった。

2ヶ月で2回。多いか少ないかは分からない。でもその2回は、確かにあった。

DATA

モバイル販売員としてほめられた記録。

勤務期間約2ヶ月(3ヶ月契約の途中で退職)
配属先家電量販店 モバイル販売コーナー
主な業務ティッシュ配り、アクセサリー案内、声出し
ほめられた回数2回
1回目上司の「結構声出てましたね。いいじゃん」
2回目Iさんの「さっきすごかったね」(コーティング見学時)
商談席に座った回数0回
チーム内順位5番手 / 5人中
自己評価と実態自己評価: 偏差値50以上 → 実態: 偏差値45
使用機材ブギーボード(電子メモパッド)、JANコード(未使用)
教育状況ほぼゼロ。「まだその段階だね」の繰り返し
コーティング見学辞める2日前にIさんが声をかけてくれた(業務範囲外)
退職方法メールで「更新しません」と送信(2026-02-20 金 13:20)
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